うわ、と素っ頓狂な声が出る。
 吊り気味の大きな目と八重歯が可愛らしい小さな女の子だった。山吹色の浴衣に身を包んでいる。
 そしてなんとも奇怪なものが二つ、いや三つ。頭頂部のあたりに、ピンと立った一対の耳。そして筆の穂先をそのまま大きくしたような尻尾。いずれも着ているもの、そして髪の毛と同じ山吹色をしている。
 狐だ、と初音は直感した。しかしこの世ならざるモノが目の前にいるというのに、不思議と恐怖を感じなかった。
 「あまり驚かれていないようですね。最近の方々は、私を見ると尻尾を巻くようにして逃げて行かれることが多いのですが」
 あ、人間の方には尻尾はございませんでしたね、と加えて狐は尻尾をゆらゆらさせた。
 初音はそこが笑う所なのかどうか判別がつかず、とりあえず無視することにした。
 「あなた、狐よね。ひょっとして私を食べに来たの?」
 そうではないことは分かっていたが、どんな反応をするか気になったので問うてみた。
 「食べるなんてとんでもございません!」
 狐は大仰にかぶりを振った。それと連動するかのように尻尾も大きく左右に揺れる。
 その様子があまりにも可笑しくいじらしかったので、初音は思わず口角が上がりそうになるが、堪えた。
 「私はあなたとお友達になりたくて参ったのです。昔は村の子供たちが遊び相手になってくださったのですが、近頃はずっと独りぼっちでしたので……」
 言って、狐は神妙な面持ちになった。
 初音は思案する。この狐が嘘をついているとはとても思えない。それに彼女の境遇が今の自分と重なり、放っておくわけにはいかなくなった。
 「いいよ。じゃあ私が君の友達になってあげる」
 「本当ですか?」
 狐は目を爛々と輝かせた。さっきから本当に表情がよく変わる。狐というからには何百年も生きているのだろうが、見た目のみならず中身までも無邪気で純粋な子供としか思えない。
 初音は妹ができた心地だった。
 大事なことを一つ、聞き忘れていることに気づく。
 「そういえば君、名前は何て言うの?」
 「あ、名乗っていませんでしたね。私はコンと申します」
 狐だから、コンか。
 「なんというか、すごくそのままだね」
 「やはりそう思われますか?」
 コンはそう言ってころころ笑った。