首に突き立てた牙から、甘美な蜜を吸う。生きてる人間の血ってこんな味がするんだ。頭がクラクラして、気絶しそう。
「......あ、あぁ......」
少年の声を聞いて理性が戻った。嘘。私、生きてる人の血を!
牙を抜くと、少年は崩れ落ちた。死んでる?
「ごめん、、、、なさい。生きてる人の血は、吸わないって決めてたのに」
逃げ去るように廃屋を後にした。いや、実際に逃げたのだ。
ただいまも言わずにドアを開け、二階にある自室に籠る。ママは心配しているようだが、話す気になれない。
その日は、よく眠れなかった。彼は死んでしまったのかな。生きてる人の血を吸った私は、どうなってしまうのかな。そんなことを、考えていた。

九月一日。二学期が始まる。吸血鬼とは言え、人間社会から完全に隔絶されて生きることはできない。だからこうして教室に入る。
黒板に名前を書き、一礼した。「天鬼緋色です。宜しくお願いします」
着席しようと窓側の席に目を向けた時、少年と目が合った。あの男の子だ。
良かった。生きてた。色々と確認したいことがあったので、彼を屋上に連れ出す。
どうやら、大きな怪我とか後遺症は無かったらしい。吸血鬼だということを秘密にするよう念押しして、屋上を立ち去る、つもりだった。
「血、吸ってもいいよ」「え?」
思わぬ提案だった。彼に何のメリットがあるのだろう。言った本人もやや困惑しているようだが、続ける。
「だって、困ってたんでしょ」
そうなのだけれど。

こうして、彼との奇妙な吸血生活が始まった。生活、と言っても一ヶ月に一度ほどなのだが。そう言えば、まだ名前を聞いていない。明日、聞こうかな。