「頼むよ〜お前がいると女子の食い付きが違うんだよ〜」
田中幸太郎が手を合わせて懇願する。彼とは小学生以来の腐れ縁だ。
「いや、僕はそういうのに興味無いから。」
肝試しとは言っても彼のことだ。どうせ合コンのようなものだろう。
「お前の好きなアンパンドーナツ奢るからさ〜」
奢る?簡単に言ってくれる。アンパンドーナツとは文字通り、穴の空いたアンパンなのだが、これが絶品だ。しかし駅前の人気店で売られているので、開店前から待って一時間は並ばないと手に入らない。
「本当に?」
おや、という顔で幸太郎が頷く。しまった。肝試しには行かないつもりだったのに。
半ば強引に連れて来られる形となった。
「アンパンドーナツ、奢らなかったらどうなるか分かってるよね?」
幸太郎は、ひい〜怖いねぇ〜、と白々しく声を上げる。「分かってるって。」
場所は有名な廃屋だ。なぜ有名なのかと言うと、自殺の名所なのだ。名所と言っても死体をこの目で見たことは無いから、あくまで噂の域を出ない。
「ペアはくじ引きで決めるぞ〜」
やっぱり合コンみたいじゃないか。そんなことだろうとは思ったけれど。
「よ、宜しくお願いします。」
吃りながらぎこちない挨拶をしたのは、黒縁眼鏡に黒髪長髪の地味な少女だ。
「こちらこそ、宜しく。」
とりあえずの挨拶を交わすと、彼女は薄く頰を赤らめた。緊張からか、僕にあらぬ期待を抱いているのか。
「それじゃあ、お前らからな。」
幸太郎に促され、洋風の廃屋に足を踏み入れる。自然と彼女の後に続こうとした僕を、幸太郎が諌める。諦めて僕が先導することにした。苦手なのだ。怖いのは
も。
懐中電灯を持っているとは言え、辺りは真っ暗だ。腕時計の短針は、八を指している。
恐る恐る廃屋に立ち入る。床の軋む音がした。
二人とも口を開かないので、道中を沈黙が包んでいる。
「......シイ。 が、欲しい。」
思わず、その場で小さく跳ねた。「さっきの声、君じゃないよね?」後ろを振り返っても、彼女はいない。逸れてしまったらしい。後で合流することにして、先を急ぐ。
後ろからの声ではなかった。前からだ。ドアを開けると、部屋の奥にクローゼットがあった。声がしたのは、あそこからか?怯えながら近付く。怖いものがあったら何かしらの対処をしないと、気になって眠れない質なのだ。
クローゼットの前に立っても、何の物音もしない。気配も無い。鍵が掛かっていて、中には入れないようだった。
中に入れないなら、入りようがない。声も恐らく、空耳だったのだろう。
ホッと胸を撫で下して、クローゼットに背を向けた、その時。背後の扉が開いた。
声を上げる間も無く、左の首筋に噛み付かれる。
「あ......あぁ......」文字通り、魂が抜けるような声が漏れる。視界が霞み、意識が遠退いて行く。
僕の体が床に倒れた時、震えた声が聞こえた。「ごめん、なさい。生きてる人の血を吸うつもりは、無かったのに......!」記憶があるのは、そこまでだ。
田中幸太郎が手を合わせて懇願する。彼とは小学生以来の腐れ縁だ。
「いや、僕はそういうのに興味無いから。」
肝試しとは言っても彼のことだ。どうせ合コンのようなものだろう。
「お前の好きなアンパンドーナツ奢るからさ〜」
奢る?簡単に言ってくれる。アンパンドーナツとは文字通り、穴の空いたアンパンなのだが、これが絶品だ。しかし駅前の人気店で売られているので、開店前から待って一時間は並ばないと手に入らない。
「本当に?」
おや、という顔で幸太郎が頷く。しまった。肝試しには行かないつもりだったのに。
半ば強引に連れて来られる形となった。
「アンパンドーナツ、奢らなかったらどうなるか分かってるよね?」
幸太郎は、ひい〜怖いねぇ〜、と白々しく声を上げる。「分かってるって。」
場所は有名な廃屋だ。なぜ有名なのかと言うと、自殺の名所なのだ。名所と言っても死体をこの目で見たことは無いから、あくまで噂の域を出ない。
「ペアはくじ引きで決めるぞ〜」
やっぱり合コンみたいじゃないか。そんなことだろうとは思ったけれど。
「よ、宜しくお願いします。」
吃りながらぎこちない挨拶をしたのは、黒縁眼鏡に黒髪長髪の地味な少女だ。
「こちらこそ、宜しく。」
とりあえずの挨拶を交わすと、彼女は薄く頰を赤らめた。緊張からか、僕にあらぬ期待を抱いているのか。
「それじゃあ、お前らからな。」
幸太郎に促され、洋風の廃屋に足を踏み入れる。自然と彼女の後に続こうとした僕を、幸太郎が諌める。諦めて僕が先導することにした。苦手なのだ。怖いのは
も。
懐中電灯を持っているとは言え、辺りは真っ暗だ。腕時計の短針は、八を指している。
恐る恐る廃屋に立ち入る。床の軋む音がした。
二人とも口を開かないので、道中を沈黙が包んでいる。
「......シイ。 が、欲しい。」
思わず、その場で小さく跳ねた。「さっきの声、君じゃないよね?」後ろを振り返っても、彼女はいない。逸れてしまったらしい。後で合流することにして、先を急ぐ。
後ろからの声ではなかった。前からだ。ドアを開けると、部屋の奥にクローゼットがあった。声がしたのは、あそこからか?怯えながら近付く。怖いものがあったら何かしらの対処をしないと、気になって眠れない質なのだ。
クローゼットの前に立っても、何の物音もしない。気配も無い。鍵が掛かっていて、中には入れないようだった。
中に入れないなら、入りようがない。声も恐らく、空耳だったのだろう。
ホッと胸を撫で下して、クローゼットに背を向けた、その時。背後の扉が開いた。
声を上げる間も無く、左の首筋に噛み付かれる。
「あ......あぁ......」文字通り、魂が抜けるような声が漏れる。視界が霞み、意識が遠退いて行く。
僕の体が床に倒れた時、震えた声が聞こえた。「ごめん、なさい。生きてる人の血を吸うつもりは、無かったのに......!」記憶があるのは、そこまでだ。