チクタク回る時計の針が、午後七時を指した頃。二人は鬼殺家にいた。
イケオジ風のスラッとした鬼殺玄影が言った。「まさかこうして、吸血鬼とお茶を飲むことになるとは」
その対面には、おっとりした天鬼桜白。「吸血鬼じゃなくて、天鬼です」
失敬、と男は謝った。「天鬼さんでしたね」
「あなたはどうして、吸血鬼を憎んでいたんでしょうか」
「いや、今思えば、私自身が一番憎かった。無力で、非力な人間である私が」
「そうですか」
「憎む対象が、欲しかっただけかもしれません」
ドタバタと階段を駆け下りる音が聞こえる。「父さん!」

二階に上がると、瞳の光を失った少女と、杭が落ちていた。「これは、どういう......」
「傷が塞がってる」瑠璃は目を丸くしていた。
「愛の杭を、刺したんですか?」天鬼が言った。
「そうです」
「成功しているかもしれません。私の夫に杭を刺しても、血が流れるだけだった。とにかく、朝を待ちましょう」
夜はまだ、始まってすらいない。朝まであと、十一時間。