夏目翠に告白された。夏目は滅多に顔を見せない、幽霊部員だったのに。全ての変化は、天鬼の入部から始まったように思う。
俺は同性愛者だ、と思っていた。夏目に想いを告げられて顔が火照るのは、何かの間違いだと。人は出会い次第で、どうとでも変わるらしい。
夏目は勇気を出して告白した。彼女の震える声が、それを物語っている。あれほど夏目が声を震わせた場面を、俺は知らない。いつも人をからかい面白がって、笑っているような奴だった。
告白、してみるか。

始業の日の空は清々しかった。雲一つない晴天。長年の片想いに決着を付けるには、うってつけの日だ。
ホームルームを終えて天鬼と話している瑠璃。......よし、行くぞ。
「瑠璃、ちょっと話ある」
瑠璃は何かを察したらしく、「ああ、行くよ」とだけ返事をして、俺の後ろを歩いている。
瑠璃が天鬼と関わり始めたのも、この屋上だったとか。明るすぎる快晴は、失敗する告白を嘲笑っている。
「瑠璃と初めて出会ったのは、小学生の頃だっけ」
「そうだね。高校までずっとクラスが同じだから、自然と仲良くなった」
「ああ」
二人の間を冷たい風が流れた。情けないな、俺は。ここまで来て怖気付いている。
「俺は、」
「言っちゃって、良いの?」
瑠璃が牽制する。俺の大きすぎる好意に、どこかで気付いていたのかもしれない。
「言ったら、今まで通りの関係では居られなくなるかもよ」
足が震える。声も震えてしまうだろう。俺がどこに立っているのかさえ、分からなくなりそうだ。「それでも構わない。俺は、瑠璃が好きだった。友達じゃなくて、恋愛対象として」
「ごめん」
「天鬼か?」
「そうだよ」
「そうか」
これが無事死亡ってヤツだ。10年にも及ぶ片想いは、ようやく幕を閉じた。
平行線を辞めた俺たちは、これから離れていくだろう。でも、それでいい。

逃げるように屋上を後にし、部室に急いだ。
「ちゃんと玉砕して来た?」からかうように夏目が言う。
「して来たよ」
「そうなんだ」夏目は意外そうだった。おい、お前が言ったんだろ。と心の中で突っ込む。
「で、また告白なんだけど、俺はお前のことが好き、かもしれないです」
「何、その煮え切らない告白は......好きなの、好きじゃないの、どっちなの?」
「あ〜も〜分かったよ。好きです。これで良いだろ?」
「雑だなぁ......」
扉が開いている事に、気付いていなかった。「お邪魔しました」天鬼がそっと扉を閉める。その隣に瑠璃もいた。
「いやいや、お邪魔じゃないから。部活しよう」
扉を開け、外にいる二人を部室に入れた。部活と言っても、ダラダラと駄弁るだけなのだけれど。