瑠璃と天鬼、夏目を遊園地に誘った。
夏目は面白がって、来るだろう。瑠璃と天鬼に関しては、一か八かの賭けだった。何しろ二人は最近、ギクシャクしている。
この状態は、俺にとって悪くないと思う。瑠璃と一緒に居る時間も増えたし、このまま自然消滅的に天鬼と関わらなくなれば、ひとまず安心だ。そうなれば、俺は瑠璃にとって一番親しい友達でいられる。のに。
俺は瑠璃と天鬼を仲直りさせようとしている。瑠璃曰く喧嘩ではないから、仲直りでもないかもしれないが。
部活で瑠璃と天鬼が来る前、夏目に相談した。俺の目を見て、夏目は言った。「君は君自身のこと中途半端だって言うけど、そういうのを、優しさって言うんじゃないの?」

「ペアはくじ引きで決めるぞ!」
先ず俺が引き、夏目が引き、その後に天鬼と瑠璃だ。夏目には、事前に協力を頼んでいる。タネは単純。俺が右端を引いた後、夏目には左端を引いてもらう。そうすれば瑠璃と天鬼がペアになる。
夏目が左端のクジに指をかけた、と思ったら一つズラした。おい......夏目には嘘を教えておけばよかった。

期せずして、天鬼とペアになる。ゴンドラの中は静まりかえっている。話すことが無い。思えば二人きりで話すのは、これが初めてだ。
俺は沈黙が苦手なタイプなので、耐えかねて口を開いた。「瑠璃とは、最近どうなの?」
適当に言ったら地雷を踏んだ気がする。もっと当たり障りの無いことあっただろうに......
「私が勝手に、避けてるだけです」
天鬼は、瑠璃以外には敬語だ。
「どうして?」
狭い室内に、再び重い沈黙が訪れる。天鬼は目を逸らして、両腕で彼女自身の体を抱えるようにしている。
「言えないことなら、言わなくていい。でもそれは、瑠璃にも言えないことなのか?」
「俺は瑠璃が好きなんだけど」
その瞬間、天鬼が顔を上げた。俺は何を口走っているんだ。
「好きな奴に好かれてるくせに、ウジウジしてる奴を見るの、腹立つんだよね」
「......ごめんなさい」
「謝罪が欲しいわけじゃない」
「天鬼が怖がってるのは、瑠璃を信じきれていないからだと思う」
「違います」
「何が違うんだ?俺に言えないことを瑠璃に話して、拒絶されるのが怖いんだろう?」
「違う」
「瑠璃は、その程度の男なのか?」
「......違う、と思います」
「だったら、言ってみろよ」
ゴンドラの扉が開いて、我に返った。「なんか、ごめん。感情的になって」
「こちらこそ、ごめんなさい。あと、ありがとう。話してみます」
観覧車を後にした頃、既に夜は始まっていた。