二学期が終わった。今日は十二月二十四日。クリスマスイブだ。
夕刻の空は、物憂げなオレンジ色だった。
「これで全員揃ったな!」
快活な幸太郎の声。演劇部の四人は、西部園ゆうえんちに集まっていた。
緋色の私服を見るのは、これが初めてだ。白無地の長袖シャツに、足首まで落ちる赤いスカート。緋色は何も言わない。
「ペアはくじ引きで決めるぞ!」
緋色に出会った洋館でも、くじ引きをしたのを思い出した。
「あれ〜おかしいな。まあこれでいいか」
夏目と僕、幸太郎と緋色のペアになった。幸太郎は偶然を装って、僕と緋色のペアを作ろうとしていたらしいが、失敗したのかな。
「最初はどこに行くの?」
幸太郎を見て夏目が言った。
「観覧車」
「いきなり?」
何となく気まずくて言葉を発せない僕らを尻目に、夏目と幸太郎が話している。
「ほら、二人も行くぞ!」
幸太郎に促されるまま、観覧車に着いた。フリーパスを取っておいたので、あまり並ばずに乗れる。
先ず奥に夏目が入った。その後に続く。
スタッフが、重い金属製の扉を閉めた。
夏目とは、微妙な関係だ。敬語を使うほど他人行儀ではないが、そこまで親しくもない。
夏目が先に口を開いた。
「天鬼さんとは、喧嘩中?」
開口一番、その話題か。
「喧嘩っていうか、なんとなく避けられてるだけだよ」
文庫本に目を落としたまま、僕を嘲笑うような笑みを浮かべて、夏目は言った。「天鬼さんは違う気がしたけど、結局いつも通りの感じだったのかもね」
夏目に向ける表情が強張っているのが分かる。「いつも通りってどういうこと?」
夏目が本に落とした目を上げる。「君の顔に惚れて入部したけど、やっぱ大したことない、って離れていく」
「緋色はそんな奴らとは違う!」思わず、声を荒らげていた。
ボト。見ると、文庫本が床に落ちていた。愛の、、木偏から先は読めない。『杭』か?
「ごめん。急に大きな声を出して」
床に落ちた本を拾いながら、物珍しい生物を見るような目で僕を見ている。「へえ。てっきり私は、天鬼さんばっかり瑠璃くんのことを好きなんだと思ってたけど、違うんだ」
夏目には、人を弄んで喜ぶところがある。やめてほしい。半分、諦めているけれど。
「違うって、どういう」
「瑠璃くんの方も、天鬼さんのこと好きじゃん」
「別に、そんなんじゃないよ」
「否定する必要ないと思うけど。それに、人のために怒る瑠璃くんなんて、初めて見た」
僕は、怒っていたのだろうか。そうかもしれない。
ゴンドラは地面に近付いていた。扉が開けられる。
幸太郎と緋色が乗ったゴンドラが、一つ遅れてやって来た。
帰りは、緋色と話してみようかな。