今日は水曜日。演劇部の活動がある日だ。
相変わらず瑠璃は天鬼と一緒に来るので、一人部室へ向かう。
扉を開けると、夏目がいた。右目を覆う黒髪に、いつも通り文庫本を読んでいる。夏目は最近、なぜか部活に来る頻度が上がった。
「君は」
ほとんど喋ったことがないのに、君と呼ばれて驚く。
「瑠璃くんが好きなんだよね?」
一瞬、ドキリとしたが、すぐに持ち直す。
「もしかして夏目、あいつのこと好きなの〜?」
目の前の少女は、文庫本に目を落としたまま言った。
「別に。そういうんじゃない。で、好きなんだよね?瑠璃くんのこと」
調子狂うな......なんとか返す。「ああ。瑠璃はいい友達だよ。腐れ縁だし」
夏目は見透かしたように言い放った。いや実際に見透かされたのだ。「友達じゃなくて、恋愛対象として、でしょ」
脂汗がバレていないか気にしながら誤魔化す。「何言ってんだよ〜そんなわけ無いだろ。まさかお前、そっちの気があるの?」
「自分で同性愛を卑下しない方がいい。それは自傷行為と同じことだから」
もう何を言っても無駄だと認めて、白旗を上げた。「何で気付いた?」
なぜか夏目は驚いていた。「当たってたんだ」
勘だったのかよ......
「理由は、何となく。これも単なる暇潰しだけど」
「あいつには言わないでくれるか?」
「それは勿論。君のことはどうでもいいし」

物憂げな夏目は一人語りを始めた。「どいつもこいつも、誰かのそばにいるために自分を偽っている。まあ、私にはそういうのが無いから、少し寂しくもあるんだけどね」
率直な疑問があるので、口にしてみる。「どうしてそれを俺に言うんだ?」
「君にとっては瑠璃くんが全てだから、私のことは割とどうでもいいでしょ?偽りが無いから、気楽なの。皆、だいたい建前と本音があって、情報量が多過ぎる。どっちか一つにして欲しい。」
よく分からない。「それがどうして、俺に構う理由になる?」
「私に飾りを暴かれた君は、もう私の前では取り繕えないでしょ。君はこれから本音しか言えないから、君といると楽。情報量が少なくて」
褒められてんだか貶されてんだか。
二人の足音が近付いてくる。演劇部の始まりだ。
夏目のことを少しだけ知ったような、より一層分からなくなったような。この関係は友達と呼べるのだろうか。少なくとも、悪い奴じゃなさそうだ。