私の名前は鬼殺玄影(おにごろしはるかげ)。瑠璃の父だ。
妻とは、25年前に出会った。初恋の人と結婚できる確率は1%らしい。私は運良く、その1%に入った訳だ。
一目惚れだった。冴えない高校生の片思いで、終わるものと思っていた。私は地味な機械オタクで、彼女は明るく高嶺の花。
私と他の地味男との差は、告白したかしなかったか、くらいのものだったと思う。卒業式の日、もうどうにでもなれと自棄になって告白した。何と言ったのか覚えていない。あまりの緊張に記憶が飛んだから。
振られる気で告白したらなぜか上手く行って、告白した当の本人が一番驚いていた。
「私なんかでいいんですか?」
「君が告白して来たのに、何言ってんの」
「いや、そうだけど、信じられなくて。他にも格好いい人は一杯いるから」
彼女はおもむろに嫌悪感を示して、吐き捨てた。「ああいう人って、『俺が告白すれば絶対に成功する』と思ってるから、好きじゃない」
どこか遠い世界の存在だと思っていた彼女が、私と同じ人間だと知った瞬間だった。

20年前は瑠璃も無事に生まれ、幸せの絶頂だ。
その日は家事の担当が私だったので、献立を考えながら買い物をしていた。8時ごろ。彼女が丁度、帰路に就く時間だった。
路地裏で倒れている所を、通行人に発見されたらしい。持病は無く、健康だった。事故死でもなかった。彼女の死は、単なる突然死として処理される事になる。解剖して欲しいと頼んだが、「事件性が感じられない」と断られた。
放心状態の目に、二つの穴が映った。それらは豆粒ほどの大きさで、首元に並んでいる。「吸血鬼?」我ながら突飛な妄想が浮かんだものだ。そんなことはある筈が無い。そうやって、忘れたつもりだったのに。

「その目は?」
少女は「生まれつき」だと答えた。吸血鬼なのか?いや、まさか。まさか、そんなことはある筈がない。息子の友達?に、あらぬ疑いを掛けたくはないのだ。
「まさか。まさか、ね。」