七月の半ばにも関わらず、窓から覗く空には灰色の雲が掛かっている。クーラーの設定温度が低く、教室は冷蔵庫さながらに寒い。
「具体的な退治方法としては、首を切り落とす、心臓に杭を打つ、死体を燃やす、銀の弾丸もしくは呪文を刻んだ弾丸で撃つ、などの方法が......」
社会科教師の声が、昼下がりの眠たげな教室に消えた。彼は変人と噂されている。それもあながち間違っていない。授業を教科書通りに進めないのだ。
「吸血鬼、ねぇ......」
独り言のつもりだったが先生にも聞こえたらしく、「質問か?」と訊かれる。「いえ。独り言です。」素直に白状すると、彼は黒板に向き直って授業を再開した。お咎めは無いらしい。
吸血鬼ってだけで怖がられ、理解されないのは一体、どんな心境なんだろうか。
見た事もない想像上の怪物。その苦悩を夢想してみる。
というのも、鬼殺瑠璃(おにごろしるり)は所謂イケメンなのだ。そのお陰で沢山の人に告白され、沢山の人に振られた。いつも決まって理由は、「思ってたのと違う」。勝手に期待されて失望され流。そんな事を繰り返す内に、告白を断るのが習慣になっていた。
見た目だけで判断されるのは、吸血鬼も辛いんだろうな、と内心で同情する。
授業が終わり帰りのホームルームが始まる頃に、空はその青さを取り戻していた。