喫茶Hesperusには猫がいる

ええ、と私は頷く。
「はいここは…八重桜の桜並木ですね」


手前にある数本のソメイヨシノは、もう花の見る影もない。
だけど、奥に続く八重桜の並木道は…新緑の葉と共に、まだピンクの花が咲き誇っているのだ。

カバンを開けると、マオンと黒猫が勢いよく飛び出してくる。
そして二匹ともその桜並木を見上げては、「おぉ…」と感嘆の声を上げている。


ご婦人はそこにあったベンチに腰かけて、静かに桜並木を見つめている。
そしてその横に─寄り添うように、黒猫も。


その様子はまるで…老夫婦が寄り添うように座っている、そんな光景に見える。

良かった、最後に二人で桜並木を見ることができて。
そう思うと、温かいものと涙が自然と込み上げてきた。




「お前面接は…?」
マオンが隣でぼそっと呟いた。
そして一瞬で我に返る。


「ああああ!!!」

時刻を見ると─二時五分前。
やばい、これは。


「すいません!これにして失礼します!!」

「お前ちょっと!!」



マオンの叫びを振り切るように、私は走ってその場を後にする。
やばい…間に合いますように、そう念じながら大急ぎで駆けて行った。