「ちょっとすいません!」
駅前でタクシーを捕まえた私は、来た道を引き返す。
そして喫茶Hesperusに飛び込んだ。
扉を勢いよく開けると、ちょうどあのご婦人がお会計真っ只中。
「あら?どうしたの貴方…」
「桜!桜ありました!」
「ちょっとお前どういうこ…」
説明がめんどくさいのでマオンと黒猫をバッグの中に押し込んだ。
ぎゃーぎゃーと煩いが、カバンの蓋を閉めて声を遮る。
「行きましょう!」
そしてご婦人を連れてタクシーに乗り込み─あの場所まで戻る。
そうさっき私が居た、あの場所。
あの場所をどうしても…この人に見せたいのだ。
そしてタクシーは、あの場所で停止する。
ご婦人がタクシーを降りると、その場に静止するように動かなくなる。
そして次の瞬間には─頬に、涙が伝っていた。
「すごい、桜だわ……」
そう私が目撃したもの。
それは…まだピンクの花が咲き誇る、桜並木だったのだ。

