喫茶Hesperusには猫がいる



(桜並木、ねぇ……)


店を早めに出た私は、面接の場所に向かっていた。
タイミング良く駅に電車が止まっていたので、随分と時間に余裕ができた。なので急ぐことなく、のんびりとスマホのナビを見ながら歩いていく。
複雑に入り組んだ道なので、正直ナビがなければどうにもならなかっただろう。


(区役所の通りにも桜並木はあったけど…もう時期的に終わっちゃったしな…
 うーん、北上するしか桜って見れないよな…)

ナビとにらめっこしながらも、思い浮かぶのは──あのご婦人のこと。
たった数分だけ話しただけの人だけど…『桜が見たい』という、そんな小さな願いすら叶えてあげられることはできないのだろうか。
あの微笑むご婦人の姿が脳裏に浮かんで、心がチクりと音を立てる。


(あ、ここ曲がるんだったら…そこの大通りまっすぐ歩いた方がわかりやすかったじゃん……)

どうしてナビのルート案内というのは、入り組んだ道を選択してしまうのだろうか。
少し距離は長くなるだろうけど、まっすぐ行った方が絶対にわかりやすいのに…なんて。

そんなことを思いながら、その角を曲がった───その瞬間だった。


(……えっ?!)

私は目の前に広がる風景に、思わず立ち尽くす。
そしてはっと気付いた時には─駅に向かって大急ぎで走っていた。