「……いつからいたのよ」
 
 泣いていたことを知られたくないのか、赤い目をしながら美咲はぶっきらぼうに聞く。
 
「今、来たんだよ。それよりも食うぞ。腹減って死にそうだ。定番のタコ焼きやお好み焼き、それにポテトや綿菓子な」
 
 平らな岩の上に、次々と食べ物が置かれる。
 
「私、屋台の食べ物初めてです。昨日から初めてづくしで良い経験になって来て良かった」
 
 翠子がカップに入ったカラフルな綿菓子を千切り、口へと運ぶ。
 お嬢様の翠子の所作は綺麗だ。
 平凡な綿菓子が、まるで高級菓子のように思える。
 
「美味しいです! すぐに口の中でとけます」
「……綿菓子だからな」
 
 逐一、味の感想を言う翠子に、慎吾が適当に相槌を打ち、自分は焼きそばを食べ始めた。雑な翠子への対応は普通らしい。
 
「二人は何、食べる?」
 
 自分はタコ焼きを食べながら、蒼太がかいがいしく碧理と美咲に聞いた。
 
「じゃあ、私もタコ焼きかな。美咲は?」
 
 蒼太の隣に腰を下ろした碧理は、美咲を見上げる。だが、なぜか美咲の表情は強張っていて辛そうだ。
 
「あ、あの。皆、本当にごめんね。泊まる場所なくて……。それに、今日一日、私のせいで雰囲気悪くてごめんなさい」
 
 勢い良く四人に向かって美咲が頭を下げる。
 どうやらずっと悩んでいたらしい。
 
「気にすんなよ。俺達も迷惑かけたし。それに、泊まる場所なら確保出来るかも知れないぞ」
 
「えっ? そうなの?」
 
 慎吾も翠子も、自分達が迷惑をかけた分、気にすることはない。と、美咲に声をかける。蒼太もいつも通りで気分を害している様子は見られない。
 
 美咲はその反応に安堵した。
 そして、今夜の一番重要な宿の確保が気になったらしい。
 
「こんなお祭りの日に泊まれる宿あるの? それに、未成年の私達にいきなり貸してくれる所の方が危険じゃない?」
 
 皆が皆、良い人ではない。親切に近づいて詐欺や犯罪行為を平気で行う人間もいる。それが一番気になることだ。
 犯罪に巻き込まれたら、それこそ本末転倒だ。
 
「食べ終わったら行って見ようぜ。屋台を抜けた向こうの海の近くにあるらしい。民泊だって教えられた」
 
 慎吾が言うには、屋台を周りながらホテルの情報を集めていたら、そこで民泊を紹介されたと言う。
 スマホで調べたら評価も悪くなく宿泊料も平均的。気候は寒くない夏とは言え、危険と隣り合わせの野宿は避けたかった。
 皆の反応に安心したのか、美咲もタコ焼きに手を伸ばし食べ始める。
 
「直接、宿に行ってみて聞こうぜ。なんでか電話が繋がらなくてさ」
 
 慎吾と蒼太は、さっきから何回か電話をかけていると言う。だが、ずっと通話中になっていて連絡が取れないらしい。
 
「……ホラーとか嫌だよ」
 
 美咲が青ざめる。どうやら心霊現象が苦手らしい。
 碧理も同じ気持ちのようで、手に持っていたから揚げを落とす。
 
「大丈夫だよ。危なくないしホラーでもないよ。ちゃんと街の観光課に聞いたから。祭りの中心で特産品や観光地のPRしてたんだ。事情を話したら、民泊にも力入れている地域だからってパンフレット貰った。それと、僕達は大学生の設定だから覚えておいて」
 
 そのパンフレットを見ると、純和風の佇まいらしい。庭も立派な元民宿で、時代の流れと共に跡継ぎがいなくなり廃業。
 
 部屋は当時のまま保存していて、使わないのは勿体ない。宿は出来ないが、泊まる人達が自分で全てやる民泊なら人手もいらない。
 そんな理由で始めたと書いてある。
 確かに、人が住まなくなった家は魂が消えたように痛んでいく。なら、家も手入れ出来て収入がある方が家主も助かるだろう。
 
「元民宿なら安心かもね。希望が出て来た!」
 
 落ち込んでいた美咲が、嬉しそうに笑った。
 
「昨日が廃校で、今日が元民宿ですか。どっちも楽しそうです」
 
 翠子が目を輝かせる。
 お嬢様は、大人しい容姿と違い、好奇心旺盛なようだ。
 
「じゃあ、食べ終わったことだし行こうか? それと、その民宿の人にも『紺碧の洞窟』のこと聞こうよ。白川の地図の位置も、ここを指している。他に情報はないんでしょ?」
 
 美咲から地図を受け取っていた蒼太が広げて確認している。
 
「うん。そこに行けば管理人がいるみたいなんだけど、管理人ってどうやって探すんだろうね? そこまではわかんないなあ。さっき健人君に電話した時にも聞いたけど、噂だから帰って来いって言われたわ」
 
 どうやら美咲は、さっきの電話で洞窟の話を確認したと言う。
 黒川健人は美咲に「噂だから」と焦って止め、すぐに帰って来るようにと説得を始めたとらしい。
 
 人を介して聞いた噂は、変な尾ひれも付いて信用出来ない。
 それに、願うことがもうない美咲や翠子、慎吾や蒼太は都市伝説だと思っている。本気で願いを叶えたいと思っているのは碧理一人だけ。
 四人が本気で洞窟を探すことは無いだろう。
 
「……電話で聞いたんだ。進歩だね……」
 
 あんなに頑なだった美咲の気持ちの変化に、事情を詳しく知らない蒼太達は興味津々だ。やはり、年頃の三人も他人の恋愛話は気になるらしい。
 
「まあね。それは全て解決済みよ。詳しくは話さないからね」
 
 だから、それ以上は聞くな。と、美咲は三人を止める。まだ、碧理以外に話す心の準備は出来ていないようだ。
 自分勝手な美咲の様子に苦笑いを浮かべて、蒼太が続ける。
 
「……一応、洞窟の話も観光課の人や地元の人にさりげなく聞いたけど、やっぱり全員が迷信だって笑ってたよ。たまに、僕達みたいに聞きに来る若者がいるみたいだけど、探して何日かしたら諦めて帰るって」
 
「そうなんだ。でも、明日の昼までは時間あるでしょ? せっかくここまで来たんだから、思い出に海の散策もしようよ」
 
 すでに美咲にとって、洞窟はどうでも良いらしい。
 ぐだぐだせずに、切り替えが早いのは美咲の長所だ。
 
「お前、相変わらず自己中心的だな。四人も巻き込んでおいて。願いはもう良いのかよ」
 
「違うわよ。巻き込んだんじゃなくて皆が付いて来たんでしょ? それに願いは……私は自分で頑張って結婚相手見つけるわ。ハイスペックの」
 
「……なんだよ、それ。お前、それ男の前で言うなよ。絶対に引かれる」
 
「言わないわよ。そのために良い大学に行く。そして男女率が平均の上場企業に就職するわ」
 
 いきなりハイテンションで語り出す美咲に、四人が呆気に取られる。
 
「……なんで上場企業なんだよ」
 
「人が多い方が出会いも多いからよ! 女ばかりの職場には出会いがない! 良い男は結婚も早いからどうせなら大学から目星をつけたい」
 
 美咲の力説に、男子二人は、もう何も言うまいと口を噤む。
 
「美咲さんの考えは最もだと思います。友達の紹介や飲み会で出会うより、大学や職場の方が、一緒にいる時間が長くて人柄が見えますし。それよりも風が出て来ましたね……。花火は見たいですけど、先に宿へ行ってみませんか?」
 
 翠子が弱々しく、そう言った。