「心配かけたくないって、俺達のことを信頼してないってことだよね?」
「それは……違う」
「違うなら、真っ先に打ち明けてくれても良かったんじゃないの? チームメイトである俺達にさ」
 高瀬の叫びに言い返す言葉が見つからない。心配をかけたくないから黙っている行為は、相手を信頼してないから生まれる。高瀬の言葉を僕は否定できなかった。
「俺達は真弓君を助けたい。これから試合までの間に、俺達にだってできることがあるはずだから」
 高瀬は言い切ると、一度古林の方に視線を向けた。古林はそれに無言のまま頷く。それを確認した高瀬は、僕に視線を戻す。
「俺達を信じてよ」
 信頼しているからこそ、二人は落に僕を選んでくれた。それなのに、僕だけが二人を信頼していなかった。実際に組みたいと思っていた理想の立ち位置を、最初から言うこともできなかった。弓道は個人競技ではない。チームで戦うスポーツだ。
「ごめん。僕は大切なことを忘れていた」
 目の前の二人がいなければ、チームとして試合に臨むこともできなかった。仲間について考えることもしなかった。
「ようやくだな」
 古林は一息吐き、安堵の表情を晒している。
「ああ。俺達はみんなで支え合わないと」
 高瀬の笑顔が眩しかった。
「大前は高瀬君でいきたい。古林君は中で。そして、僕が落。それでいいよね?」
 聞かなくてもわかっていたけど、二人に問いただしてみる。二人とも笑顔を浮かべていた。
「「おう!」」
 ここからが試合に向け一番の正念場となる。このチームで大切な試合を勝ち抜かないといけない。ようやく僕達の男子弓道部が動き出した。一人で戦っているのではない。チームで戦っている。周りを見渡せば、大切な仲間がいる。
 そう実感できている僕は、本当に幸せなんだと思った。

「最近どうなの?」
「まあ、順調かな」
 そっか、と凛は安堵の表情を見せる。こうして凛と会話するのが久しぶりで、自分のことに集中していたと気づかされる。
 喫茶店から家に帰り、自分の部屋の電気をつけると直ぐに携帯が震えた。画面を見ると凛からだった。電話に出るなり「窓の外を見て」と言われカーテンを開けると、目の前に凛の姿があった。
「今から家に行くから!」
 そう言い残した凛は、数分後に玄関のチャイムを鳴らし、今に至っている。
「こうして凛の形を見るの、久しぶりだね」
「一が見ていない間に、私も成長したんだから」