「……さん、一ノ瀬さん?」
「あ、ごめん。なに?」
昨晩の香耶との通話に想いを馳せて藤堂くんの話を聞いていなかった。
すると彼は意味深な含み笑いをすると「いや」と、
「また、会えるといいね」
「……?」
そんな言葉を口にした。
朝練が終わり教室に入ると、私はとある男子と目が合った。
「お、一ノ瀬さんおはよう。元気?」
「う、ん。おはよう、元気で」
す、と返事し終える前に挨拶をくれた八神くんは他の女の子から声を掛けられてそちらを向いた。
私は複雑な気持ちを抱えながらも自分の席に向かって鞄を下ろす。
八神くん、本当に男女問わず人気だな。全く話したこともない私にまで声を掛けてくれるし。
それに、と想い馳せている途中で八神くんが席を立つと黒板を消していた女子生徒に近付く。
「上の方消せないでしょ。手伝うよ」
「え、ありがとう」
「ぜーんぜん。つーか頼ってくれていいよ、無駄に背高いから俺」
助けられた女子の頬がぽっと赤く染まる。うーん、ああいうことされるとときめいちゃうのも分かるなあ。
「(目立つからかな。目で追っちゃうな)」
八神くんの周りにはいつもキラキラのエフェクトが掛かっているように見える。