香耶は一年生の時から藤堂くんに片想いをしていた。

容姿のこともあって男子からちょっかいを掛けられることが多かった彼女は自然と男の子が苦手になっており、人見知りなこともあって私以外の人とは話そうとしなかった。

しかしそんな時、偶然同じ委員会になった藤堂くんに優しくされたことでその認識が変わったのだった。


《去年は話すことすらままならなかったけど、二年生だし前に進んで見ようと思って》

「……」

《由奈ちゃん、協力してくれる?》


耳元で囁かれた甘い声に、半年ほど前の記憶が蘇った。
香耶に初めて「藤堂くんのことが好きだ」と告白されたときの記憶が。


『あのね、由奈ちゃん』


私ね、と舌足らずな口調で伝えられた言葉は、今でも記憶に新しい。


『狡いね、一ノ瀬さん』


そして私が犯してしまったことも。


「……あ、当たり前だよ」


電話越しに聞こえるようにそう強く発すると彼女が安心したように息を吐いたのが分かった。


《ありがとう。それで考えたんだけど……》

「……」


彼女の声が意識の遠くの方で聞こえていた。
大丈夫、私はもう二度と同じ過ちを繰り返さないから。

香耶の笑顔の為にも。