すると今度は私たちがいる扉とは違う入り口の方でわっと歓声が上がり、みんな視線が集中した。
人が集まっていた入り口の視線を向けるとその中で一際目立っているその人に目を奪われる。
目立っているというか、突き抜けているというか。
「えー、八神もこのクラスか!」
「晴馬くんと一緒とか嬉しすぎるよ~」
そのような声が上がる中心で笑っていたのは今朝私が落としたパスケースを渡してきた男子だった。
「言い過ぎでしょ。でも今年一年宜しくな」
彼のその一声でまたクラスの生徒が嬉しそうに騒ぎ始める。凄い、あそこまで影響力が高い人、生まれて初めて見た。
「あの人、さっきの人だよね。八神、くん? 三年生だと思ってた」
「八神晴馬くん。去年選択の授業で一緒だったけど明るくていい子だよ」
藤堂くんの説明を耳に挟みつつ、その八神くんのことを見据えた。
今朝のことといい、クラスが一緒といい、なんだか凄く縁のある人だなあ。
「(あれだけ人気だと私になんか興味ないだろうけど)」
その時の私はまだこの瞬間が波乱の始まりだったということに気付いていなかった。