あ、なんかこれ……駄目だ……


「俺、出来ればもっと一ノ瀬さんのことが知りたい。何が好きとか、普段何をして過ごしているのか、とか……」

「……どう、して」


その先を知りたい私と聞きたくない私がいる。
だけど口にした言葉はその先を尋ねているものだった。


「ごめんね、でも俺は一ノ瀬さんと違って今目の前にあるものを手に取らずにはいられないから」

「私と、違う？」

「……ねぇ」


一ノ瀬さん、そう言って一歩こちらに踏み出した彼に私は体が強張る。
ただの思い違いだって思いたい。期待してるって自分を蔑んでほしい。

でも今、藤堂くんが言ったのは……


「（やめて、来ないで……）」


一瞬頭に浮かんだ香耶の歪んだ顔。
香耶の、傷ついた顔。


「違う！　私はっ……」

「一ノ瀬さん？」

「私は……藤堂くんと同じ気持ちじゃ」


ない、そう言葉にしたら心臓が締め付けられるみたいに息が出来なくなった。

あぁ、今私は自分で自分の首を絞めたんだ。
藤堂くんのことが好きな私を、殺した。

吐き気がする。


「……そっか。それが、一ノ瀬さんの気持ち？」

「……」


藤堂くんの目が見れなくて、こくんと首を縦に振ると彼がふっと笑ったのと同時に気まずい空気が風で飛ばされるように変わった。


「突然ごめんね。何でもないよ、教室戻ろうか」

「……うん」


それ以来、藤堂くんが私の前で今と同じ空気感を持ち出すことはなくなった。