でも……
「一ノ瀬さん」
「は、はい」
「ゴミ捨てるから貸して」
彼に持っていたゴミ袋を取り出すとゴミ捨て場にそれを置いてくれた。
放課後だからか辺りは閑散としていて、校舎の三階から吹奏楽部の演奏が聞こえてきた。
好きな男の子と二人きりなんて、きっと前の私なら素直にドキドキしていた。
でも、今は……
と、
「一ノ瀬さんて、いつも朝どんな本読んでるの?」
「え?」
「電車で本読んでるから」
これまで会話すら交わしたことがないのに彼からそんな質問をされたことに驚いた。
電車でのことは認識されているとは思っていたけど、朝話しかけられたこともなかったから。
少しでも気に掛けてくれていたこと、素直に嬉しい。
「えっと、物語というか、純文学っていうの?」
「そうなんだ、面白い?」
「う、うん。今度貸そうか?」
「いいの? ありがとう」
朝、電車で向けてくれるのと同じ笑顔を浮かべた彼に心がざわつく。
あぁ、駄目だ。私やっぱりこの人のことが……
そう再確認した瞬間、私たちの間の空気が変わった。
「……一ノ瀬さん」
藤堂くんの纏う雰囲気が、違う。
「一ノ瀬さん」
「は、はい」
「ゴミ捨てるから貸して」
彼に持っていたゴミ袋を取り出すとゴミ捨て場にそれを置いてくれた。
放課後だからか辺りは閑散としていて、校舎の三階から吹奏楽部の演奏が聞こえてきた。
好きな男の子と二人きりなんて、きっと前の私なら素直にドキドキしていた。
でも、今は……
と、
「一ノ瀬さんて、いつも朝どんな本読んでるの?」
「え?」
「電車で本読んでるから」
これまで会話すら交わしたことがないのに彼からそんな質問をされたことに驚いた。
電車でのことは認識されているとは思っていたけど、朝話しかけられたこともなかったから。
少しでも気に掛けてくれていたこと、素直に嬉しい。
「えっと、物語というか、純文学っていうの?」
「そうなんだ、面白い?」
「う、うん。今度貸そうか?」
「いいの? ありがとう」
朝、電車で向けてくれるのと同じ笑顔を浮かべた彼に心がざわつく。
あぁ、駄目だ。私やっぱりこの人のことが……
そう再確認した瞬間、私たちの間の空気が変わった。
「……一ノ瀬さん」
藤堂くんの纏う雰囲気が、違う。


