◇◆◇◆
毎朝6時30分に停まる駅のフォームからいつも弓道の長い弓袋を肩に掛けた男の子が入って来る。
一瞬手に持っていた文庫本から目線を上げて、その男の子の表情を盗み見る。
「(眠そうだなぁ……)」
少しだけ外に跳ねた寝ぐせが愛らしい。早朝の電車内は静かで人も疎ら、特に私たちの周りは人がいなかった。
文庫越しに密かに眺めていたのだが視線に気付かれたのか、彼の視線がこちらに向いた。
と、
「(おはよう)」
「っ……」
口を動かすだけでそう告げた彼。ただの朝の挨拶なのに私は顔を赤らめて彼からの視線を文庫で遮った。
私は恥ずかしがっているのことに分かっているのか、彼は軽く微笑んで外の景色を眺め始めた。
「(今日も、格好いいなぁ……)」
同じクラスの藤堂美弦くんは毎朝私が乗る時間の電車に乗り込んでくる。
高校の最寄駅に着くまでの数十分の短い時間、この時間だけが私が女の子でいられる時間。
藤堂くんとは同じ電車に乗ること以外は関わりがなくて、クラスでも会話をしたことはない。
私のような人に話しかけられても迷惑だろうし、付き合いたいとか両想いになりたいとか烏滸がましいことも考えられなかった。
毎朝6時30分に停まる駅のフォームからいつも弓道の長い弓袋を肩に掛けた男の子が入って来る。
一瞬手に持っていた文庫本から目線を上げて、その男の子の表情を盗み見る。
「(眠そうだなぁ……)」
少しだけ外に跳ねた寝ぐせが愛らしい。早朝の電車内は静かで人も疎ら、特に私たちの周りは人がいなかった。
文庫越しに密かに眺めていたのだが視線に気付かれたのか、彼の視線がこちらに向いた。
と、
「(おはよう)」
「っ……」
口を動かすだけでそう告げた彼。ただの朝の挨拶なのに私は顔を赤らめて彼からの視線を文庫で遮った。
私は恥ずかしがっているのことに分かっているのか、彼は軽く微笑んで外の景色を眺め始めた。
「(今日も、格好いいなぁ……)」
同じクラスの藤堂美弦くんは毎朝私が乗る時間の電車に乗り込んでくる。
高校の最寄駅に着くまでの数十分の短い時間、この時間だけが私が女の子でいられる時間。
藤堂くんとは同じ電車に乗ること以外は関わりがなくて、クラスでも会話をしたことはない。
私のような人に話しかけられても迷惑だろうし、付き合いたいとか両想いになりたいとか烏滸がましいことも考えられなかった。


