窓の外では球技大会の続きが行われており、生徒たちの声が遠くから聞こえていた。
慣れない手つきで消毒を進める彼にさっきのことを思い出してどうしても感謝を伝えたくなった。


「八神くん、ありがとう。さっき庇ってくれて」

「ん?」

「その、相手チームの男の子に」


私のことを「女の子」だって言ってくれたこと。
彼はなんてことないように手を止めてこちらを見た。


「いや、あれは向こうが悪いよ。どう見ても女子に向かって投げる球じゃなかったし」

「多分私がそのボール取れてたから」

「けどさ、一ノ瀬さんが女の子であることは変わりないわけだし」

「……」

また、言ってくれた。ううん、違う。彼にとってそれは当たり前のことで。
私がずっと諦めていたこと、簡単に口に出来る。

きっと歩んできた道が、違うんだ。


「大丈夫、だから」


絞り出すように出した声が何故か震えていた。


「男の子扱い、慣れてるし」

「……」

「そっちの方が場が収まることもあって」


八神くんと違って、私はいつだって自分を守る為に必死だ。
そうやって気持ちを偽って、どんな言葉を受けても傷付かないように……

そうやって、ずっと……