「あれ、先生いないじゃん」


騒然としていた運動場を後にし、八神くんに支えられながら保健室に辿り着いたがそこに保険医の先生の姿はなかった。
まだ球技大会が続いているから外に出払っているのかもしれない。


「わ、私先生探してくる!」


そう言って保健室を飛び出していった香耶を目で追うと、八神くんが教室にあった椅子に私を座らせてくれた。
保健室には私たち以外は誰もいないようで、このような静かな空間で彼と二人きりになるのは初めてだった。

と、


「お腹大丈夫?」

「え?」

「ボール当たったじゃん、結構大きな音したから」


あぁ、そっちか。流石に生理だとは気付かれていないようだ。
ちょっとお腹が痛いだけと告げると彼は何かに気付いたのか辺りを見渡して何かを探し始めた。


「脚、怪我してる」

「あ……」


確認すると右膝から血が出ていた。よろついて地面に膝をついたときに怪我を負ったのかもしれない。
彼は消毒液とティッシュを手に取ると私の前にしゃがんだ。


「ごめんな、ちょっと染みるかも」

「う、うん……」


何処までも献身的な彼の行いに戸惑いながら怪我したところを消毒してくれている姿を見つめていた。