避けなければ、そう思ったときには投げられたボールが私の腰に当たり、鈍い打撲音が聞こえる。
アウトを告げる笛は鳴り響くがあまりの痛みにその場から動けなくなった。


「おい! お前当たっただろ! 早く外野に」

「なんか様子変じゃないか?」

「いや、そんな強く投げたつもりじゃ」


微かに聞こえる相手チームの男子たちの小言に言い返そうにも口を開くと吐き気を催しそうだった。

と、


「由奈ちゃん!」


聞き覚えのある声が聞こえたと同時に地面についていた腕を誰かに取られた。
顔を上げると、私の腕を取ったのは思いがけない相手だった。


「大丈夫か?」

「っ……」


心配そうに顔を覗き込んできたのは八神くんだった。私が倒れそうになったのを見て助けにきてくれたのかもしれない。
彼は視線を私から相手チームに向けると「おい!」と声を荒げる。


「相手女子だぞ! 手加減しろよ!」

「え、でもそいつ普通に強いし」

「強いからじゃなくて、女の子だろうが」


当たり前のことを、当たり前だと疑わずに口に出せるその姿は今の私には眩しく思えた。
八神くんはコチラを振り返ると「大丈夫か?」としゃがみ、私に肩を貸した。


「保健室まで歩けるか?」

「う、うん」


肩を貸してもらい立ち上がるとゆっくりと昇降口の方へ歩を進める。
するとタタタッと駆け寄る足音が聞こえ、気が付くと心配そうな顔を浮かべた香耶もついてきてくれていた。