隣に人がいることを忘れて呟いた言葉を拾われ、呆気に取られる。
八神くんは不思議そうに私の顔を覗き込んできて、その距離の近さに思わず後ろに下がった。


「な、何でもない」

「樋口さんって一ノ瀬さんと仲良いよね。去年同じクラスだった?」

「そうだけど」

「そっか。でも折角クラス一緒なんだし、俺とも仲良くしてほしいな」


あぁ、何だこの人も他の男子と一緒なんだ。そう思うと彼に構う気がスーッと冷めていった。

昔から容姿のせいで男の子から嫌がらせを受けることが多かった。
それは周りは「ちょっかい」という言葉で片付けていたが、被害を受けた私からしたら迷惑でしかなくて。

それから男の人そのものが苦手になっていた。

だけど藤堂くんは男の子が苦手だった私のペースに合わせて話してくれて、嫌なこと一つもしなかった。
こんな優しい男の子もいるんだって、初めて知った。


「良かったらさ、連絡先交換……」

「私、そうやって誰にも彼にもいい顔する人」

「え?」


その場で立ち止まると彼も一緒に脚を止めてこちらを見た。


「大嫌いだから、二度と私に馴れ馴れしい態度取らないで」

「……」


態度を変えた私に驚いたのか、口が塞がらなくなった八神くんを置いて歩き出す。
大切な人以外にどう思われたっていい。


「(あぁ、最悪な新学期だ……)」