その声に顔を上げると右手首に白いレジ袋を提げた八神くんが立っていた。


「え?」

「パン、凄い形相で人混み入っていったから」

「あ、うん。焼きそばパン食べたくて」

「美味いよなー」


まるで往年の友人だったかのような気さくさで話しかけてくる彼に調子を崩された。
彼も教室に戻るのか、自然と二人で帰り道を歩くことになる。


「でね、身長が高いせいか私が歩くと周りが空くというか」

「分かる。でもお陰で満員電車とか凄い楽だよな」


隣に並ぶと彼の背の高さが一段と際立った。私よりもまた一つ目線が高いということは、185㎝は超えてるよね。
ここまで背が高いと普通威圧感があるはずだが、彼の人柄も相まって不思議と感じられなかった。


「そういえば一ノ瀬さんって体育委員なりたかったの?」

「え?」

「さっき、手挙げてたから」


彼の口から出た言葉を心外に思った。意外だ、結構周り見えているんだ。


「いやぁ、でも進行滞ってたし誰かがやらないとって」

「はは、そっか」

「それに運動は好きだし、私髪も短いからぴったしと言えばぴったし」


かも、とふざけたような口調で言うと彼は「そう?」と、


「一ノ瀬さんってその為に髪短いの?」

「え、いや。部活するからだけど」

「でしょ。髪短いから体育委員にぴったりなんて誰も思わないよ」

「……」


あ、と思った。


「違うなら違うって言っていいんだよ」


この人の言葉、心抉るなって思った。