女の子は誰だって、一度は誰かのお姫様になりたいと願う。

"こんな"私でも、そう願ってみてもいいのかな。




そして私は毎朝同じことを願っている。

どうか、


「(今日は背が伸びていませんように……)」


そんな私の願いとは裏腹に、今日も悲惨な結果が待ち受けていた。


「あ、姉ちゃん今日も背伸びてるー!」

「本当だ! 伸びてるー!」

「嘘!?」


弟たちの声で後ろを振り返り、先ほどまで背をくっつけていた家の大黒柱を確認する。
すると確かに昨日計った高さよりも上に赤ペンで横線が引かれているのが目に入った。

結果に絶望して柱に頭をぶつけた私に対して、毎朝私の身長を計ってくれる小学生の弟たちはメジャーを取り出して高さを測定するとキャッキャと騒いだ。


「おおっ! 遂に175cm突破! これは180㎝台が見えてきましたね?」

「由奈姉がこんだけ伸びてるんだから俺たちももっと伸びるよな!」


今年で小学6年生になる双子の兄・旭と弟・暦は将来の自分の成長が楽しみなのかもしれないが、女である私はこの成長を喜んでいいものなのか。
朝起きたら家を出る前に家の大黒柱に日々の成長を記録する。これは昔からの一ノ瀬家の伝統なのだ。


「つーか姉ちゃん、こんなにゆっくりしてていいの? 今日から学校だろ?」

「っ……」


そうだった。旭の言葉に我に返ると双子の「いってらっしゃーい」という見送りの言葉を背中に受け、私は慌てて家を飛び出した。


一ノ瀬由奈、16歳。
今日から高校二年生です。