『HEAVEN準備室』ではその日の放課後も、新しく配るチラシ作りにみんなで励みながら、耳と口だけは昨日のテレビの話題で大いに盛り上がっていた。
「あのシーンが良かった」とか「あの女の子が可愛い」とかやっぱり可憐さんと、それから夏姫ともよく趣味があう。
けれど、話題に全然参加しようとしない繭香が、私はなんだか気になった。
「ねえ……繭香はどんな番組が好きなの?」
問いかけた私に、繭香はあの大きな瞳をすっと向けて、冷たく言い放つ。
「くだらないことを聞くな」
三週間前の私だったら、もうこの時点で蛇に睨まれた蛙のように竦みあがって、怯んでしまうところだ。
でも今の私は、繭香とだってほんの少しは歩み寄れたと思っている。
だから勇気をふりしぼって、更に踏みこんでみる。
「いいじゃないの。教えてよ」
しかし呆れたように肩を竦めるばかりで、繭香は答えを返してくれない。
代わりに可憐さんが、パチリとウインクしながら教えてくれた。
「繭香はお笑い番組が好きなのよね」
日本人形のように整った繭香の顔と、お笑い番組という言葉が上手く合致せず、私は思わず大声を上げた。
「ええええっ⁉」
繭香がギロリと、最上級に恐ろしい視線をこちらに向ける。
いくら私だって、それ以上はもう何も言えなかった。
(さすがにそんな勇気はないわ……)
話を逸らす意味も込めて、その時ちょうど部屋に入って来た美千瑠ちゃんに、急いで問いかける。
「ねぇ……美千瑠ちゃんは? どんな番組が好きなの?」
クスクスクスと小さな口に両手を当てて、美千瑠ちゃんはいつものようにこの上なく可愛らしく笑う。
「ごめんなさい……私の家には、テレビがないの……」
あまりに予想外の返事に、思わずポカーンと口が開いてしまった。
その顔がよっぽど面白かったらしく、美千瑠ちゃんは、尚更にっこりと微笑む。
「だから、なんにも見たことないの……」
(ひ、ひょっとして……テレビも買えないようなお家なのかしら……? 美千瑠ちゃんを見てるととてもそうは思えないんだけど……だとしたら、ちょっと悪いこと言っちゃったかしら……?)
口には出さず頭の中でだけ考えて、次に美千瑠ちゃんになんと声をかけたものかと思案する私に、夏姫は大慌てで、ぶんぶんと手を振ってみせた。
「逆! 多分、今琴美が考えていることの、まるで真逆だから!」
(真逆?)
首を捻る私に、夏姫は、「こりゃダメだ」と言わんばかりに大きなため息をついた。
それからもっとわかりやすい切り口で、美千瑠ちゃんのお家についての説明をしてくれる。
「杉原コーポレーションって知ってるでしょ? ……美千瑠はそこのお嬢様」
「は?」
呆気に取られた一瞬の後、窓ガラスがビリビリ鳴るほどの大声が出た。
「ええええええっ⁉」
そんな私に注目して、部屋中のみんなが大笑いする。
「琴美ってさぁ……なんでそう毎度毎度、予想どおりの反応をしてくれるわけ?」
順平君がもうたまらないとばかりにお腹を抱えれば、
「琴美ちゃんって……本当に、人の噂に疎いのね……」
可憐さんは妙に感心したように頷いている。
「琴美は、素直なんだよね……」
智史君がにっこり笑えば、
「考え無しなだけだ」
繭香が無表情に切って捨てる。
その言葉で、みんなはまた大笑いを始めた。
でもこれだけ言いたいように言われているのに、腹が立たないのはなぜだろう。
ひどい言われ方をしても、それはそれだけ、一人一人が私のことをちゃんと興味を持って見ていてくれると感じるからかもしれない。
私にとって、この仲間たちはとても大切だった。
(貴人が、私たちの生徒会に『HEAVEN』って名づけた気持ちがわかる気がする……少なくとも私にとっては、ここは言葉どおり天国みたいだ。全生徒にとって、この学校が天国のように感じられるように……貴人はしたいんだよね……)
それはひどく困難で実現が難しいことなのかもしれないけど、この仲間たちとだったら、きっとできるような気がする。
個性もバラバラなこの仲間たちと、ぜひとも私たちの『HEAVEN』を発足させようと、私は今まで以上に強く心に誓った。
「あのシーンが良かった」とか「あの女の子が可愛い」とかやっぱり可憐さんと、それから夏姫ともよく趣味があう。
けれど、話題に全然参加しようとしない繭香が、私はなんだか気になった。
「ねえ……繭香はどんな番組が好きなの?」
問いかけた私に、繭香はあの大きな瞳をすっと向けて、冷たく言い放つ。
「くだらないことを聞くな」
三週間前の私だったら、もうこの時点で蛇に睨まれた蛙のように竦みあがって、怯んでしまうところだ。
でも今の私は、繭香とだってほんの少しは歩み寄れたと思っている。
だから勇気をふりしぼって、更に踏みこんでみる。
「いいじゃないの。教えてよ」
しかし呆れたように肩を竦めるばかりで、繭香は答えを返してくれない。
代わりに可憐さんが、パチリとウインクしながら教えてくれた。
「繭香はお笑い番組が好きなのよね」
日本人形のように整った繭香の顔と、お笑い番組という言葉が上手く合致せず、私は思わず大声を上げた。
「ええええっ⁉」
繭香がギロリと、最上級に恐ろしい視線をこちらに向ける。
いくら私だって、それ以上はもう何も言えなかった。
(さすがにそんな勇気はないわ……)
話を逸らす意味も込めて、その時ちょうど部屋に入って来た美千瑠ちゃんに、急いで問いかける。
「ねぇ……美千瑠ちゃんは? どんな番組が好きなの?」
クスクスクスと小さな口に両手を当てて、美千瑠ちゃんはいつものようにこの上なく可愛らしく笑う。
「ごめんなさい……私の家には、テレビがないの……」
あまりに予想外の返事に、思わずポカーンと口が開いてしまった。
その顔がよっぽど面白かったらしく、美千瑠ちゃんは、尚更にっこりと微笑む。
「だから、なんにも見たことないの……」
(ひ、ひょっとして……テレビも買えないようなお家なのかしら……? 美千瑠ちゃんを見てるととてもそうは思えないんだけど……だとしたら、ちょっと悪いこと言っちゃったかしら……?)
口には出さず頭の中でだけ考えて、次に美千瑠ちゃんになんと声をかけたものかと思案する私に、夏姫は大慌てで、ぶんぶんと手を振ってみせた。
「逆! 多分、今琴美が考えていることの、まるで真逆だから!」
(真逆?)
首を捻る私に、夏姫は、「こりゃダメだ」と言わんばかりに大きなため息をついた。
それからもっとわかりやすい切り口で、美千瑠ちゃんのお家についての説明をしてくれる。
「杉原コーポレーションって知ってるでしょ? ……美千瑠はそこのお嬢様」
「は?」
呆気に取られた一瞬の後、窓ガラスがビリビリ鳴るほどの大声が出た。
「ええええええっ⁉」
そんな私に注目して、部屋中のみんなが大笑いする。
「琴美ってさぁ……なんでそう毎度毎度、予想どおりの反応をしてくれるわけ?」
順平君がもうたまらないとばかりにお腹を抱えれば、
「琴美ちゃんって……本当に、人の噂に疎いのね……」
可憐さんは妙に感心したように頷いている。
「琴美は、素直なんだよね……」
智史君がにっこり笑えば、
「考え無しなだけだ」
繭香が無表情に切って捨てる。
その言葉で、みんなはまた大笑いを始めた。
でもこれだけ言いたいように言われているのに、腹が立たないのはなぜだろう。
ひどい言われ方をしても、それはそれだけ、一人一人が私のことをちゃんと興味を持って見ていてくれると感じるからかもしれない。
私にとって、この仲間たちはとても大切だった。
(貴人が、私たちの生徒会に『HEAVEN』って名づけた気持ちがわかる気がする……少なくとも私にとっては、ここは言葉どおり天国みたいだ。全生徒にとって、この学校が天国のように感じられるように……貴人はしたいんだよね……)
それはひどく困難で実現が難しいことなのかもしれないけど、この仲間たちとだったら、きっとできるような気がする。
個性もバラバラなこの仲間たちと、ぜひとも私たちの『HEAVEN』を発足させようと、私は今まで以上に強く心に誓った。