「ヤバい……。どれもおいしいわ。メニュー、全制覇したくなっちゃう」
「本当ですね。次、手羽先の塩焼きいっていいですか?」
「あ、じゃあ、明太オムレツも!」

 塩見くんと、カウンター席で隣り合って飲むというのは新鮮で、悪くなかった。塩見くんが料理をする音を聞いて待っているのも好きだけど、最初からずっと隣にいておしゃべりしていられるのは楽しい。

 上品な食べ方なのに、いつもより早いペースで一品を片付けて、次々に追加を頼む塩見くんを見るのも新鮮な驚きがあった。さすが、二十四歳男子の食欲。決まった量を作る宅飲みと、いくらでも追加ができる居酒屋では食べっぷりも違うのだろうと思っていたら。

「いつも自炊だから、だれかの作ったおつまみを食べられるのがうれしくて、つい食べ過ぎちゃいますね」

 というからくりだった。

「それで今日はペースが早かったのね」
「はい。あ、いったん僕、お手洗い行ってきていいですか」
「どうぞ。お店を出て、あっちのほうにあったわよ」

 お店にトイレはなく、ビルのお客さま用トイレまで行かないといけない。いない間にばくばく食べているのも悪いし、のんびり飲んで待っていようと日本酒のおかわりを頼んだとき、招かれざる客人はやってきた。