ロープウェイを下り、神社を参拝して、夕方になるころには旅館に着いた。そのころには私も、ショックを忘れてふだん通り振る舞えるようになっていた。

 荷物を部屋に置き、夕飯までまだ時間があったので、久保田と旅館内の温泉に足を運ぶ。

「はー、生き返るぅ……。肩、ガッチガチだったのよ」

 湯気でにじむ視界のむこうには、弊社の女子社員の姿もちらほら見える。みんな、バスの移動で疲れたのだろう。塩見くんに告白していた子の姿が見えないことになぜかホッとする。

「先輩、そのセリフおっさんっぽいです」
「久保田もアラサーになればわかるわよ、温泉のありがたみが」

 こうして広いお風呂で熱い湯に浸かっていると、ふだんストレスにさらされて凝り固まった身体も心もゆっくりとほどけていくようだ。

「それにしても、先輩ってスタイルもいいんですねえ。こんな立派なものをお持ちなのに、彼氏がずっといないなんてもったいないです」
「ほめているのかけなしているのかわかんないようなこと、言わないでよ。そういう久保田こそ、着やせするタイプなんじゃない?」

 たるみ始めたお腹は、毎日の腹筋とスクワットでもとに戻した。

 スタイルがいいと言われても、日本人女性の平均を大きく超えてはいないだろう私とは違って、久保田はハリウッド女優のようなグラマラスさだった。わりと童顔で小柄だから、『脱ぐとすごいんです』感が半端ない。