だって、榊さんはものすごくいい感じのひとなのだ。
超美人というほどではなく、男の目を奪うような体型でもない。服装だって通勤服にアクセサリーを足す程度にすると言っていた。けれど、だから目立たないかというと、そんなことはない。あの笑顔と話し方があるから。
たぶん彼女は、職場にいるときと同じような笑顔を浮かべているだろう。そして、気取らない話し方、相手に合わせる話題。それらが相手に与える印象は “安心” だ。美人過ぎないことも、グラマーじゃないことも、ただ “安心” の要素に過ぎない。
“安心” 、つまり、ほっとする、ということ。言い換えれば “癒やし” 。
きらびやかなホテルの宴会場での賑やかな集まり。それなりにドレスアップしている女性たちの前で、少し無理をしている男もいるはずだ。日々の仕事に疲れている男も。そんなときに、ほっとするような笑顔が目に留まったら。それが知り合いだったら。
俺だったら、きっとすぐに話しに行く。
ぼんやりしていると、話したくない誰かに話しかけられてしまうかも知れない。だから、迷わずに。
彼女はきっと、上手に相槌を打ちながら、楽しそうに話すだろう。男が苦手だということは微塵も見せないで。
高校生のころはほとんど男と話したことがないと言っていたから、彼女と楽しく話ができた男は驚くかも知れない。その意外性が、彼女への興味をかきたてるかも知れない。あるいは、彼女がこんなに話してくれるのは、自分に好意をもっているからだと誤解するとか。自分と彼女の相性が良いと思い込んでしまうとか。ここで会ったのは運命だと信じてしまうとか。
それはノート男であろうが、ほかの男であろうが同じこと。そして、知り合いじゃなくても、彼女をターゲットに見定めた男にとっては同じこと。同窓会で話しかけるきっかけを作ることなんて、合コンよりも簡単だ。
(……どうしよう?)
彼女がしつこい男を上手くあしらえることは何度か見て知っている。でも、今日再会する男の中には、それで片付けられないヤツがいるかも知れない。でなければ、榊さんの好みのタイプそのものの男が――。
(どうしよう!?)
胸騒ぎがひどくなってきた。
頭の中に、カクテルグラスを手にした榊さんが、男に何かを囁かれて驚きながら頬を染める、という場面が浮かぶ。彼女に同窓会の話を聞いてから、この会場は、俺の頭の中ですっかり馴染みの場所になってしまった。
(性質の悪いヤツにかかったら……)
言葉巧みに彼女を安心させて、ふたりだけで次の店へ。普段の彼女なら、そんな男に引っ掛かることはないはずだ。でも、緊張して参加した同窓会でそんな男に会ったら。
そうだ! それがノート男だっていう可能性だってある!
卒業後に手紙をくれた女の子。そこにはお礼しか書いてなかったけど、想いが自分に向いていることには気付いただろう。それを利用しようと悪心を抱くかも知れない。
(榊さん……)
胸がドキドキする。何かしなくちゃと思うのに、何をすればいいのか分からない。
やっぱり榊さんは同窓会に出ちゃいけなかったんだ。
あんなに嫌がっていたんだから。きっと、虫の知らせだったんだ。“出席したら大変なことが起こる” って。
(た、大変なこと?!)
自分で考えた言葉に慌ててしまう。頭の一方では「落ち着け」と声がして、もう一方では「危険だ!」と叫んでる。
(大丈夫だ。榊さんはそんなヤツに引っ掛かったりしない)
息を大きく吸って、目を閉じる。そして、まずは自分ができることを考えなくちゃ。
できること。それは……。
テーブルの上のスマートフォンが目に入る。
電話だろうか? それともメール? でも、何て?
「同窓会は危険です」なんて言ったって意味がない。俺の勝手な想像だと笑われるのがオチだ。それに、榊さんは友達のために出席するんだから。
そうだ。同窓会に出るのは止められない。
だとしたら、そのあとだ。会場から出てきたところを捕まえたい……けど、どこだか分からない。東京駅の周辺だと聞いただけ。駅で待つって言ったって、東京駅は広すぎる。
(これもダメだ)
俺が迎えに行くと連絡しても……笑って断られるに決まってる。やっぱり黙って行くしかない。
残るは榊さんの住んでいる最寄駅。
そんな場所で待っていても、何も意味がない。帰ってくるときにはすべてが終わっている。それに、まるでストーカーみたいだとも思う。きっと榊さんもびっくりするだろう。
でも。
ひと目顔を見られれば安心する。無事に帰ってきた姿を見たら。
そうだ。行こう。
始まるのは夕方6時と聞いた気がする。とすると、終わりは8時か9時? ここから榊さんの駅までは30分もかからない。夕食を食べる時間はあるから、暖かくして行けば、少し長く待ったって大丈夫だろう。
(よし)
ここでイライラしているよりも、行動する方が気持ちが楽だ。
超美人というほどではなく、男の目を奪うような体型でもない。服装だって通勤服にアクセサリーを足す程度にすると言っていた。けれど、だから目立たないかというと、そんなことはない。あの笑顔と話し方があるから。
たぶん彼女は、職場にいるときと同じような笑顔を浮かべているだろう。そして、気取らない話し方、相手に合わせる話題。それらが相手に与える印象は “安心” だ。美人過ぎないことも、グラマーじゃないことも、ただ “安心” の要素に過ぎない。
“安心” 、つまり、ほっとする、ということ。言い換えれば “癒やし” 。
きらびやかなホテルの宴会場での賑やかな集まり。それなりにドレスアップしている女性たちの前で、少し無理をしている男もいるはずだ。日々の仕事に疲れている男も。そんなときに、ほっとするような笑顔が目に留まったら。それが知り合いだったら。
俺だったら、きっとすぐに話しに行く。
ぼんやりしていると、話したくない誰かに話しかけられてしまうかも知れない。だから、迷わずに。
彼女はきっと、上手に相槌を打ちながら、楽しそうに話すだろう。男が苦手だということは微塵も見せないで。
高校生のころはほとんど男と話したことがないと言っていたから、彼女と楽しく話ができた男は驚くかも知れない。その意外性が、彼女への興味をかきたてるかも知れない。あるいは、彼女がこんなに話してくれるのは、自分に好意をもっているからだと誤解するとか。自分と彼女の相性が良いと思い込んでしまうとか。ここで会ったのは運命だと信じてしまうとか。
それはノート男であろうが、ほかの男であろうが同じこと。そして、知り合いじゃなくても、彼女をターゲットに見定めた男にとっては同じこと。同窓会で話しかけるきっかけを作ることなんて、合コンよりも簡単だ。
(……どうしよう?)
彼女がしつこい男を上手くあしらえることは何度か見て知っている。でも、今日再会する男の中には、それで片付けられないヤツがいるかも知れない。でなければ、榊さんの好みのタイプそのものの男が――。
(どうしよう!?)
胸騒ぎがひどくなってきた。
頭の中に、カクテルグラスを手にした榊さんが、男に何かを囁かれて驚きながら頬を染める、という場面が浮かぶ。彼女に同窓会の話を聞いてから、この会場は、俺の頭の中ですっかり馴染みの場所になってしまった。
(性質の悪いヤツにかかったら……)
言葉巧みに彼女を安心させて、ふたりだけで次の店へ。普段の彼女なら、そんな男に引っ掛かることはないはずだ。でも、緊張して参加した同窓会でそんな男に会ったら。
そうだ! それがノート男だっていう可能性だってある!
卒業後に手紙をくれた女の子。そこにはお礼しか書いてなかったけど、想いが自分に向いていることには気付いただろう。それを利用しようと悪心を抱くかも知れない。
(榊さん……)
胸がドキドキする。何かしなくちゃと思うのに、何をすればいいのか分からない。
やっぱり榊さんは同窓会に出ちゃいけなかったんだ。
あんなに嫌がっていたんだから。きっと、虫の知らせだったんだ。“出席したら大変なことが起こる” って。
(た、大変なこと?!)
自分で考えた言葉に慌ててしまう。頭の一方では「落ち着け」と声がして、もう一方では「危険だ!」と叫んでる。
(大丈夫だ。榊さんはそんなヤツに引っ掛かったりしない)
息を大きく吸って、目を閉じる。そして、まずは自分ができることを考えなくちゃ。
できること。それは……。
テーブルの上のスマートフォンが目に入る。
電話だろうか? それともメール? でも、何て?
「同窓会は危険です」なんて言ったって意味がない。俺の勝手な想像だと笑われるのがオチだ。それに、榊さんは友達のために出席するんだから。
そうだ。同窓会に出るのは止められない。
だとしたら、そのあとだ。会場から出てきたところを捕まえたい……けど、どこだか分からない。東京駅の周辺だと聞いただけ。駅で待つって言ったって、東京駅は広すぎる。
(これもダメだ)
俺が迎えに行くと連絡しても……笑って断られるに決まってる。やっぱり黙って行くしかない。
残るは榊さんの住んでいる最寄駅。
そんな場所で待っていても、何も意味がない。帰ってくるときにはすべてが終わっている。それに、まるでストーカーみたいだとも思う。きっと榊さんもびっくりするだろう。
でも。
ひと目顔を見られれば安心する。無事に帰ってきた姿を見たら。
そうだ。行こう。
始まるのは夕方6時と聞いた気がする。とすると、終わりは8時か9時? ここから榊さんの駅までは30分もかからない。夕食を食べる時間はあるから、暖かくして行けば、少し長く待ったって大丈夫だろう。
(よし)
ここでイライラしているよりも、行動する方が気持ちが楽だ。