ただ、年齢限定っていうのも不思議な感じがする。高校生のころからだというから、学校という場所に原因があるのかも知れない。

今は仕事では平気なようだけど、まるっきり大丈夫という話ではなかった。大丈夫なのは仕事の要件のときだけで、雑談は苦手だと。

あそこの職場はいろんな人が出入りして、気楽に話をして行く人もいる。人付き合いの良い榊さんは、いろいろなところから飲み会の誘いも多い。俺は3年間隣に座っていたし、何度も同じ飲み会に参加していたのに、ちっとも気付かなかった。その苦手な対象者が多くはなかったのかもしれないけど、きっと、気付かれないように、努力もしていたんだろうな。言ってくれていれば、少しは助けてあげることもできたかも知れないのに……。

(そうか……)

誰にも言うなと何度も念を押された。槙瀬さんにも里沢さんにも言ってはダメだと。今日は、俺が具合が悪くなりそうだと言うから話したのだと。

つまり、俺しか知らないこと。ということは、俺しか助けてあげられないってことだ。

もちろん、年がら年中くっついて見てあげる、ってわけじゃない。ときどき様子を見て、手助けが必要そうなときに助けてあげよう。それくらいのことは、してあげたっていいはずだ。



翌朝、職場で会った榊さんは、照れ隠しのつもりか、俺にちょっとおどけた顔をしてみせた。俺はいつもどおりにあいさつをしながら、「誰にも言いません」という気持ちを込めて頷いてみせた。そのとき、ほんの一瞬、弱気な彼女を見たような気がした。