天崎くんを奪っちゃう!

「うん」

 にっこりと微笑んだ本田さん。

「ぼくが…きみの…、こいびとなんて…」

 幼い心で信じられない気持ちだった。

「でも…てんざきはわたしのこいびとだから」

「どうして…ぼくを?」

「だいすきだからー」と言って本田さんはオレに抱き着いて来た。

「うぁー!」

 驚くオレだった。

「しょうらいは…、おたがいに…、けっこんするんだよ。おぼえていてねー」

「うん…、わかった」

 思わず返事しちゃったのかな?

 コッチは覚えていないけど、本田さんは今でも忘れていないとか。
 
「本田亜留! ぶっ殺してやる!」

 部屋で私ったら、思わず下品な事を言ってしまって。

 何だか怖いなー。

 まあ心の中でモヤモヤがいっぱい貯まっていたからつい、ガス抜き状態になったのかな?

 目の前に本人がいたら私は、容赦なくボコボコにしちゃってるかもねー。

 とにかく、顔を思い浮かべるだけでも心穏やかにいられないのだ。

 私は夜、寝る前のひとときに1人で考え事をしていた。
 実は今日の昼間、学校で本田さんと言い争いしたしー。

 廊下で顔を合わせたした時だったっけ?

お互い無意識に立ち止まり目を合わせた。

 思いがけない所でのバッタリ顔合わせに本田さんは最初は戸惑っていたけど、すぐに落ち着いてニヤリと微笑んだ。

「黒江ぇ〜、ご機嫌、いかがぁ〜?」

 ハァ、ご機嫌いかが?

 何なの?

 人を軽蔑しているような、このあいさつの仕方は。

 目を細め、ちょっと意地悪そうな視線で私を見るのだ。

「まぁ、ぼちぼちだけどね」

 返事をするけど視線を合わせない私。

「文句言わないのぉ? 昨日の事ぉ」

 昨日の事について話しを切り出して来たか。
「何のつもりだったの?」

「何のつもりだったのかって?」

「天崎といきなり、あんな大胆な事を」

「反則だって言いたいのかなー?」

「反則もイイところ。マジで愚劣」

「男女が恋に落ちれば、キスするぐらいフツーでしょう?」

 私が愚劣って言うものだから、本田さんは変な顔をする。

「天崎は同意したのかな? キスOKって」

「勿論したよ」

「それはウソ。天崎がそんな同意なんてしない」

 どうせ、アンタが強引にキスをしたんでしょう?

 私がこう言いたいんだろうと本田さんは察知したのかな?

フフッと含み笑いした。


「黒江が言ったように私の行為は愚劣かもねー? でもこうでもしないと、なかなか天崎を渡してくれないでしょう?」

「別にアンタに…」

 反論しようとしたけれど、相手は言葉を強引に進める。

「私って気が短いから、いつまでもダラダラと待つなんて億劫なの」

「そーんなに天崎が欲しいのかな?」

「もーっちろん! 早く渡しなさい! …って言っても、もう私のモノだしー」

「岡村大吾と付き合っていて、今度は天崎とも付き合う。二股、かけるつもり?」

「二股じゃないけどねー」

「じゃあ単なる浮気なんだ? それだったら岡村くん、怒るんじゃない?」

岡村大吾って言う名前が出て、本田さんは意外な事を口走った。

「あの男はどうだってイイ」

 アッサリとした言い方。

「なーにそれ? もう好きじゃないって事かな?」

「私は天崎と付き合うの。岡村は関係ない」

「天崎の恋人は私だよ? アンタの恋人は岡村くんの方じゃないの? あー、そっかー。向こうと別れて天崎に乗り換えるって事か」

「だからもう乗り換えている…」

 言い終わる前に私は強引に喋る。

「天崎はもう私のモノだと言っているけど! コッチは中学の時から交際しているんだよ!」
「それがどうかしたの? 私なんか幼稚園の頃に出会ったんだけど」

「え?」

 何と天崎と本田さんは同じ幼稚園に通っていたみたい。

 これは初耳だな?

「天崎には話しているからね。それと柳田マキや、あのやかましい八乙女紗理奈にもね」

 同じ幼稚園で本田さんから告白し、天崎は同意をしたって事を。

「そうなんだー。でもそれって、幼稚園時代の話しでしょう? 小さな子ども同士の会話なんだから今だにそんな思いを持つなんて変」

「変なのかな?」

「変に決まってるじゃーん!」

 ムカつくなコイツ。
変だと私から言われて本田さんはムッとなった。

「アンタにそんな事を言われる筋合いはない。とにかく! 天崎はもう、私のモノだから!」

「…」

 天崎の気持ちを知った上で言っているのかと私は疑問に思った。
 何だか本田さんが一方的に話しを進めているような気がしてならない。

「前にも言ったように新しい恋を見つけなさーい? 何だったら、岡村をアンタにあげちゃってもイイからー」

「あっそう、それはありがとう。岡村くんを頂くねー」

 ついつい勢いでこんな事を言ってしまった私なのだ。
あの後は私、本田亜留からボロクソにけなされてしまった。
 負けまいと私は言い返したけれど、本田さんの方が口達者だった。
 口喧嘩では誰にも負けないと自信持っていた私は今回は敗退なのだ。
 
 さて寝ようとした準備をしていた時、何と久しぶりに川辺すみれちゃんの声を聞いた。
 電話がかかってきたのだ。

「まゆー! 久しぶりぃー!」

 スマホの向こうから聞こえて来る、すみちゃんの元気な声だ。

「久しぶりぃー! 元気してるぅー⁉︎」

「元気だよー! まゆの方はー?」

「私も元気だよー!」