夜、ランタンが灯る事は無かった。
 薄っすらと夜が開け始めた頃に、電気が復旧し、驚いて菊理が目覚めると、隣にはまだタカオが眠っていた。
 無防備に寝息をたてるタカオは、全裸で菊理に腕枕をしていた。
 同様、菊理も一糸まとわぬ姿だった。皺くちゃになった浴衣が、壁際にわだかまったままになっている。
 かろうじて布団をかけたのはどちらだったのか。
 部屋のあちこちに、情事の名残が残っていた。
 明かりが恥ずかしくなって、菊理はゆっくりタカオの腕から抜け出して、しわくちゃの浴衣を纏った。
 壁際のスイッチで明かりを消して、広縁からまだ薄暗い外を見た。
 風が収まる様子は無い。暗くて見えない海も、恐らく荒れているのだろう。
 シャワーを浴びたい気持ちはあったが、民宿の和室には備え付けの風呂は無い。
 風呂場は24時間いつでも使ってかまわないと言われていたが、万が一老夫婦のどちらかと出くわしたら、気まずい事この上ないだろう。
 昨夜、できるだけ声は出さないようにはしたが、気取られただろうか。
 夫婦の部屋の場所がわからない。
 階下であったならば、振動などで気づかれた可能性は高かった。
 タカオは、音には頓着しなかった。
 思うままに振る舞い、菊理に啼くよう求めた。
 求められるままに応じたい気持ちもあったが、声を殺す理性だけは、残っていたと信じたい。

 菊理は、いままでに無かったような満ち足りた気持ちになっていた。
 至とは、まだベッドを共にした事は無かった。
 新婚旅行には行く予定であったし、子作り宣言はあらかじめされてはいたが、ブライダルチェックを受けただけで、そちらについて確かめようとはしなかったのだ。