「あの滝は、竜宮に繋がっている伝説があるんですね」
 菊理は、しばらく身動きができず、露天風呂からあがり、タカオの姿を探したが、すでにその姿は残ってはいなかった。
 けれど、大浴場から脱衣場にかけて、潮の匂いが漂っていた。
 海からこんなに遠いのに、そう思いながら、菊理は宿の浴衣を着て、部屋へ戻る途中、宿に来る前に立ち寄った滝にまつわる伝説について書かれたポスターに目を留めた。
 仲居だろうか、作務衣姿の女性に尋ねると、宿の女性がさらに詳しく説明してくれた。
 何でも、滝壺は竜宮に通じており、温泉街のある集落は滝壺に願うと、膳や食器を借り受けていたのだそうだ。
 ある時、借りた膳を戻さなかった為、それ以降、滝壺から竜宮への願いは届かなくなったのだという。
「そう……ですか」
 菊理は、諦観したように微笑んで見せた。