縁談は、トントン拍子で進んだ。見合いをしたのと同じホテル内の料亭で結納をし、基本プランナーに投げっぱなしの形通りの式ではあるが、招待客をリストアップし、衣装を決め、料理も決まった。
 というところで、菊理は何だか全てが虚しくなってきた。
 かといって、今更結婚は無かった事に、とは言えない。
 一泊二日の一人旅を申し出たところ、未来の夫は快諾してくれ、旅費も持ってくれた。新居のはずのマンションに、妻では無い女を連れ込み放題の二日間を得られた事に、喜びすら感じていそうだったので、菊理は、遠慮なく浪費する事にした。
 曰く、月給とは、『耐える』事への対価なのだという。
 ならば、とびきりの男の形だけの妻である事に『耐える』自分にとって、これは正当な報酬なのだと開き直る事ができた。
 行く場所は特別決めてはいなかったが、どこか島へ渡ってみたいと決めていた。都心からそこそこ近く、手頃な島へ渡る為、新幹線で本州を横切り、島へのフェリーが出ている港までやって来た。
 わずかに心配があるとするならば、季節が九月で、台風が近づいているという事くらいだろうか。
 だが、式まではまだ日があり、今の菊理に仕事は無い。一泊二日と言ってはきたが、もらった旅費は一週間以上高級ホテルに滞在できるほど潤沢にあり、少々帰宅が遅れたところで、誰かに咎められることもない。
 菊理が選んだのはそういう相手だ。
 ジェットフォイルと呼ばれる高速艇に乗れば、目的地『赤江島』は、もうすぐそこだった。