河床を割くように流れ落ちる渓谷は、ニキロほど続いているという。菊理は、滝と聞いてもっと落差のあるものを想像していたが、どちらかというとゆるやかに流れる河が、岩の裂け目に流れ落ちていくような様相のものだった。
 少し規模は小さいが、ナイアガラやイグアスの滝のように、ある程度の川幅を持った複数の滝が流れ落ちていく様子は見応えがあった。
 川べりは風が涼しく、車移動で少し汗をかいた後だったせいもあり、清々しさがあった。
 菊理は、思い切って来てみて良かった、そう思った。
 タオルを持ってきた至が、靴を脱いで足を川面に近づける。
「うわ、思ったより冷たっ!!」
 流れてくる川の水は、近くの連峰からの雪解け水らしい。
 確かに、海よりは山の領域に居る安心感があった。
「君もどう? 気持ちいいよ? どうせすぐにチェックインするし、少々濡れても大丈夫だろ?」
 至が入ったあたりは浅く、くるぶしあたりが濡れる程度だ。至も、パンツの裾を少したくしあげただけで、着ている物までは濡れていない。
 菊理も、靴下を脱いで足をつけてみる事にした。
 足の裏をわずかに濡らすと、ひんやりとした感触が背筋を登っていく。
 至の手をとり、川の中に入ると、大きな岩の上だという事もあって、足が痛む事もなかった。
「本当、気持ちいい」
 菊理が両足で川面に立った、その瞬間。
 菊理を中心に、波紋ができる。
 ふわり、と、広がり、すぐに水面は何事もなかったように静かになった。
 見ると、至は気づいて居ない様子で、菊理は、一人で幻覚を見たのだろうかと不安になった。
「……どうかした?」
 足元をしきりに気にしている菊理に、至が心配そうに尋ねたが、菊理は曖昧に微笑むだけで、湧き上がった不安を言葉にはしなかった。