びしょ濡れの菊理を助けたのは至だった。
 濡れた服のまま、至が菊理に熱いシャワーを浴びせかける。意識がはっきりしてきた菊理は、いやいやをするようにタカオの名を呼び続ける。
「私が……私があんな……、約束っ……したのにっ」
 自分を見失っている菊理の両手を掴み、至が口付ける。
 菊理は驚いて目を見開いた。
 衝撃、驚き、戸惑い。
 そこで初めて、菊理は現状を理解した。
 菊理の瞳に正気が戻った事を確かめて、至は、すまない、と、一言詫びて、バスルームから出ていった。
 菊理は、しばらく呆然として、服のまま立ち尽くしていた。
 シャワーから溢れる湯の熱よりも、至の触れた手と唇が熱を持ち、菊理はその場にしゃがみこんだ。