驚くべき事に、とてもなごやかな会食だった。
 至の嫌味は冴えたが、タカオが天然で返すので、そのやりとりは滑稽で、出来の良い喜劇を見ているようなテンポの良さがあった。
 菊理も捨て鉢になっているせいか、素のままで笑い、時に毒を吐いた。
 もっと早くこんな風に時間がとれていれば、至に対してもう少しやさしい気持ちになれていたのではないかと思えるほどだった。
「驚くべき事だけど、君は彼と一緒にいるほうがずっとチャーミングだ」
 食事を終えて、最後のコーヒーを飲みながら至が言った。
「本当に、あなたのセリフってどこかのロマンス小説から切り抜いてきたみたいなんだけど、実は熱心な愛読者だったりするの?」
「ああ、そう、そういう指摘をもっと早くして欲しかったなあ、残念だけど、俺は別にそういったものを研究はしてないよ、ただ、より多くの女性を喜ばせようとしていると、必然的に型にはまっていくものでね」
 そう言い放って両手を広げるポーズも、ロマンスの王子様そのものに見えた。
「何で多勢必要なんだ?」
 ふいにタカオが言った。
「俺は、ククリがいればいい、ククリだけが欲しい、『他』も、『たくさん』もいらない」
「けどタカオ、世の中に女性はそれこそ星の数ほどいるんだぞ? もっと自分に似合う、ベストな相手がいるかもしれないじゃないか?」
 至に言われて、タカオは少し考えたが、やはり答えは同じだった。
「なんで比べる必要がある? 別に比べてもいいけどさ、俺はククリに会って、欲しいと思った、今までそんな気持ちになった事は無いし、東京に来て多勢女の人も見たけど……、うん、やっぱりククリが一番だ」
 にぱっと、微笑んだ音が聞こえてきそうなほどの素直な笑顔に、至は毒気を抜かれ、菊理はひたすら恐縮した。
「……これは、ごちそうさまと言うべきなのかな……、菊理、君はどうやら運命の相手って奴に会えたんだね」
 珍しく、至がわずかに寂しそうな顔をした事に驚いて、菊理は皮肉では無くてこう言った。
「あなたにも、きっといる」
「……だといいけどね」
 菊理は、初めて至の心の柔らかな部分に触れたような気がした。