朝食は遠慮します、と、内線電話で老婦人に言ったが、昼になると、心配したようで、襖の向こうから声をかけられた。
 タカオのようにいきなり襖を開けられずに助かった。
 菊理は、まだ半裸のままタカオと同衾していたからだ。
「どうしましょう、予定では一泊だったんですが、フェリーも欠航になってしまいましたし、もしよろしければ、もう一泊されますか? うちはこんな状況ですし、お代はけっこうですので」
「いえ、そういうわけには……元々台風が来るのはわかっていましたし、二泊になるかもとは思っていたので、……はい、もう一泊させて下さい」
 襖越しの菊理と老婦人のやりとりに、ふいにタカオが混ざってきた。
「母ちゃん、お腹すいちゃった、ご飯まだある?」
 菊理も、唐突に言い出した事に驚いたが、襖の向こうの老婦人はもっと驚いたようだった。
「タカオ?! あんたどうしてお客様の部屋に……朝から姿が見えないと思ったら……、まさかっ、まさかまさかっ!!」
「お客様?! 大丈夫ですか? 開けますよ!!」
 昨晩の今日ゆえに、不安に思ったのも無理は無い。老婦人は菊理を心配したいたのだろう。
 中にいた二人が取り繕う暇もなく、老婦人が襖を開けた……。