カズラと話している内にいつの間にか肖像画の前に着いたらしく、俺は一旦通話を打ち切って視線をそちらへと向けた。
「暗くてよく見えないね」
 秋海棠の言うように肖像画は上側に飾られていて、薄暗い闇夜に紛れてよく見えない。
「ここで懐中電灯の出番、ってわけだな」
 得意げに笑いながら飛燕は懐中電灯を取り出す。
 目立つので移動中は使わなかったが、こうして肖像画を確認するのには必要な道具だ。
「あー、なにか緊張してきた……」
 胸に手を当てて緊張した顔持ちの柊は、苦笑混じりに呟きを漏らす。
 その様子からは実際の怪談とこれから遭遇するかもしれないという状況に、高揚感と緊張感が複雑に入り交じっているようにも見える。
「だ、大丈夫だよナンちゃん……み、みんながいるし」
 秋海棠は柊に声を掛けるが、自分自身もがちがちに緊張しているのが見て取れる。
「……大丈夫だろ、多分」
 自らに言い聞かせるように呟くと、カメラを肖像画の方へと向ける。
 これで懐中電灯の光が当たれば、カズラも見えるに違いない。
「じゃあ、いくぞ……」
 全員の確認が取れると飛燕は、懐中電灯のスイッチを入れ肖像画に向けて光を当てる。
「……特に異常はない、か?」
「うん、みたいだね……」
 まず一番左の肖像画が照らされると、固唾を飲んで呟きを漏らす。
 肖像画に異常が見受けられないことを確認すると、秋海棠も同意するように頷いた。
「まだ一個目、だからね」
「じゃあ、次いくぜ……」
 どこか安堵するような空気が流れたが、柊の言うように肖像画はまだ他にもある。
 飛燕は俺たちに確認を取ると、懐中電灯の光を横に移動させた。
「……これも特に異常なし、か」
「次のも大丈夫だね」
「その隣も大丈夫みたい」
 最初はおそるおそるといった調子だったが、いくつか確認しても怪談のように『肖像画の目が光る』、と言う現象は一向に起きない。
 かなり身構えていた分、その反動でどこか拍子抜けしてしまう。
「なんだ、結局噂はデマだったのかよ」
「そんなもんでしょ、怪談ってのは」
 弛緩した空気の中、飛燕がやれやれと笑いながら呟きを漏らす。
 柊はそんな飛燕を見て、同じくどこか安心したように笑っている。
「んじゃ、こいつで最後か――」
 いつの間にか肖像画は一番右に飾られたものを残して、確認が終わってしまっていた。