この山は有名な山脈や連山でも何でもない。

九州の小さな炭鉱跡の、これまた小さなボタ山に過ぎないのだから。

「寒い……だんだん手の感覚が無くなってきた……」

3月の昼過ぎだというのに雨に濡れた身体は急激に体温を低下させてゆく。

どこか雨宿りできる場所は──

“ボタ”とは石炭を採掘した後に出る、捨て石のことである。

膨大な捨て石は長い年月を経て山となり、

明空の登ったこの山も小さいとはいえ、標高は100メートルを裕に超えていた。