「阿修羅?」

会社名の看板を見上げ、荒神さまは不快げに唸る。

「ゲーム開発会社です」

そう言うと各務はインターフォンで用件を告げた。

すると──

パーン!

いきなり各務の足元で赤い何かが弾ける。

「ペイント弾だ!予めスナイパーを配置していたか!?全員散開!遮蔽物の陰に隠れろ!」

「ひゃあぁー!」

「お?始まりか?いや待て明空!どこへ行く?」

パニックに陥った明空は荒神の制止も聞かず、在らぬ方向へ逃げ出した。

「落ち着け!闇雲に動くと敵の思うつぼ──」

言いかけて荒神は口をつぐむ。次の瞬間、逃げようとしていた明空の右足が大きく弧を描き、背後に迫る人影に後ろ回し蹴りを食らわせた。

彼女はすかさず腰のナイフケースからサバイバルナイフを抜く。そして無様に尻餅を着いた男の頭をナイフの握り手で思い切りぶん殴った。

「ギャア!?」

「殴った本人が悲鳴を上げてどうする?いや、わしもとっさに明空の身体を使こうてしもうた。許せ」

「も、もう帰りましょうよ……」

「何を言う?戦いは始まったばかりじゃ!つまらん御託を言っとらんで、早よう、この者を撃て!」

「え!?気絶してるのに?さらに追い撃ち!?」

「各務の説明を聞き逃したか?勝ち負けは申告制。息を吹き返したこやつが、すっとぼけたら何とする?どこでも良いから弾を食らわせ深紅に染めよ!」

荒神さまは厳しい。戦いになると人が変わる。

さすが武闘神は伊達じゃないよと妙に感心しながら、明空はベレッタM92を左脇のホルスターから抜く。

そして『南無阿弥陀仏』と心の中で唱えながらぎゅっと目をつぶって引き金を引いた。

パン!と乾いた音がして、男のゴーグルが真っ赤に染まる。

「おお!顔を撃ったか!やることが(むご)いの?」

「荒神さまがやれッて言ったんですよ!」

「やはり近距離は拳銃に限るの!ライフルとショットガンもあるから色々と使い心地を試そうぞ!」

荒神はノリにノっていた。あっという間にルールと武器の使い方を覚え、使いこなしてしまう。

明空の危惧も何のその。荒神さまはフンフンと鼻歌を歌い次なる獲物を探し始めた。



「お嬢さん、迷子?」

よせばいいのに獲物というものは、向こうからやってくる。

案の定、明空は無人の倉庫街に逃げ込んだつもりが敵から声を掛けてきた。

相手は迷彩服の3人。その真ん中の若い男が声を掛ける。