〜恋慕〜もしも死んだ愛する人が、生き返ったとしたら



それからの俺の日常はガラリと変わった。
モノクロでつまらなかった日々がカラフルに色付き、俺は毎日美希と過ごせる事に喜び、感謝した。
もうこれ以上のものは何もいらない。
心からそう思えた。

家から出ることができないと言った美希に、それでもいい、ただ側にいてくれるだけでいいと俺は言った。
俺は毎日キッチリ定時に仕事を終わらせると、美希の待つ家へと帰った。

一年前、俺達は結婚して初めて一緒に暮らす予定でいた。
その果たせなかった未来を今、俺は美希と一緒に叶えていた。

「ただいま、美希」
「おかえりなさい、京ちゃん」

笑顔で俺を迎えてくれる美希。
そう、この笑顔さえあれば俺は幸せなんだ。

俺は顔を(ほこ)ばせると笑顔の美希を抱きしめた。



美希が戻ってきてから一カ月が経ち、俺もすっかり今の生活に慣れてきた。
家に帰れば笑顔で美希が出迎えてくれ、俺達は一緒に夕食を取り、夜は美希を抱きしめて眠った。

俺は手に持った小さな箱を見て微笑む。
今日は美希と付き合って十年目の記念日。
高校の同級生だった俺達は、俺の一目惚れで交際をスタートさせた。

イチゴの乗ったショートケーキを嬉しそうに食べる美希の姿を想像すると、俺はケーキの入った箱を持って家へと急いだ。

家の近くまで行くと、急に周りが騒がしくなる。
嫌な予感がした俺は家へ向かって走り出した。
そこにはたくさんの人集り(ひとだか)りと二台の消防車が止まり、俺の住む木造アパートが燃え上がっていた。

「ーー美希!」

俺は人集り(ひとだか)りを押し退けると家の中へ入ろうとする。

「君! 危ないから下がって!」
「美希が! ーー美希が中にいるんだ!」

俺は制止を振り切ると急いで自分の部屋へと向かった。

美希……。美希……。
無事でいてくれ……。

燃え盛る炎の中、俺は自分の部屋へ入ると美希を探した。

「美希! ……美希!」
「京ちゃん……」

声のした方へ行くと、そこには泣きながら(うずくま)る美希の姿が。
俺は美希の元へ行くとその小さな身体を抱きしめた。

「美希、もう大丈夫だよ」
「京ちゃん……」

美希は泣きながら震える手で俺を抱きしめる。

美希が俺の元へ戻ってきた日、美希は俺に言った。
『この家から出たら私は消えてしまう』と。

俺は腕の中にいる美希をキツく抱きしめると、美希の耳元で囁いた。

「大丈夫、もう美希を一人にさせないよ」

俺は抱きしめている身体を少し離すと、目の前の美希を見つめ、その唇にキスをした。

「ーー愛してるよ、美希」

俺はそう言うと美希を見つめて優しく微笑んだ。



 ーーーーーー


 ーーーーー



「……酷いわねぇー」
「木造だから火のまわりが早かったみたいよ」
「煙草の不始末が原因らしいわね。でも犠牲者がいなくて良かったわよね」
「それがね。一人いたらしいのよ、二十代の男性が」
「可哀想に……。まだ若いじゃないの」
「聞いた話しだとね、自分で飛び込んで行ったらしいのよ」
「え?! 自分で? ……命より大切なものでもあったのかしら」
「変な話しだけどね……。その亡くなった男性、ウェディングドレスを抱きしめたまま亡くなってたらしいのよ」
「ウェディングドレス? ……何でそんなもの」
「さぁ……」
「まぁ、他に燃え広がらないで良かったわよね」
「そうね。うちの旦那にも煙草は気をつけてもらわなきゃ。うちの旦那ったらねーー」

「ーーーー」


「ーーーーーー」















 ーー完ーー




最後までお読み頂きありがとうございました(*'ω'*)..


この作品は、私が書いた二作品目の小説です。
んー今書くとしたら、もうちょっと違う感じになったでしょうか……。

「恋慕」心を奪われる愛慕。

それ故に見えた夢か幻か。はたまた、一人寂しく生きる彼を不備に思った彼女がお迎えに来てくれたのか……。
悲劇と捉えるか、これが彼にとっての幸せな結末だったと捉えるのか。
それは読者様次第になるでしょうし、その本当の答えは彼自身にしかわかりません。
愛のカタチや幸せは人それぞれ。
ラストでゾワッとして貰えたなら成功なのですが。笑


これは、夢で見たものにインスパイアされてパパッと書いたものです。
私が見たのは亡くなった愛するペット達の夢ですが。
よく見るんです、生き返って喜んでる夢を。

夢から覚めた時、一度失ったペットをもう一度失った感覚になり悲しくなります。
もし生き返ってくれたら、目の前にある光景をただ無条件に信じ、愛し、守ろうとするでしょうね。



そんな想いからできた作品でした。





お読み頂きありがとうございましたm(_ _)m

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