面接からの帰り、私の顔はにやけっぱなしだった。
「……へへっ……えへへっ……」
ずっと口元がゆるんでいた。
採用をもらった後も、帰り際には再度相原君とばったり出会い見送ってもらって、なんのトラブルもなく無事普通に終える事が出来た。
今まで、こんな風に面接出来たのはそれこそ就活の時以来だ。
ヒイラギが来てからというもの、なんだかんだとツイていなかった。
相原君から、今度同期で飲み会がある事も教えてもらえた。
仕事、友達、失ったものが私にもう一度戻ってきた。
(これって、もしかして……)
もしかすると、私はもう不運に打ち勝ち、ようやくまともな人生を歩んで行けるのかもしれない。
そう前向きな気持ちでいた私に──
「あっ、危ないっ!」
耳に届いた声の方、上空を見上げた次の瞬間、目の前でいきなり大雨が降り始めた。
それは私の全身を濡らし、数秒で止んだ。
ポタポタと足下には水たまりが出来ている。
よーく周りを見てみるとちょうど、私が前を通っていたお店の2階で窓ガラスの清掃作業が行われていたようだ。
ひっくりかえったバケツが足場に転がっているのが見える。
普段だったらそんな光景を見かけたら絶対避けて通るところを、すっかり幸運続きで気が抜けていた私はあろうことか真下を通ってしまっていた。
(ああ、やっぱりツイてないっ!!)
さっきまでの事がウソみたいだ。
やっぱり、アレはお試しだったからなのだろうか。
じゃあ、もう一度、もう一度ヒイラギとキスをすればまた私は幸運になれるのだろうか?
ううん、それよりももっとキス以上の事をすればもしかして……。
(でも、そ、それ以上って……そんな事……)
考えただけで頭の中は沸騰しそうだった。
「なずな、オカエリっ……って、ど、どうしたの? ビショビショだよ?」
玄関を開けるとエプロン姿のヒイラギは、ただいまの声を聞く間も与えず私に抱きつき、まじまじとズブ濡れの私を見つめた。
「帰りに……バケツの水が降って来て」
「た、大変! お風呂先入りなよ」
そう言うと、即座に私を風呂場へと促す。
私は言われるがままに脱衣所で大量に水を含んだ服を脱ぎ、シャワーでまず冷えた体を温めた。
「タオルと着替え、ここに置いておくよ」
バスルームの磨りガラス越しに写る影はそう言って、私の様子を伺っているようだった。
「ヒイラギ? どうかした?」