「なんでも……いいの?」

あまりの剣幕に押され気味のヒイラギはポツリと言った。

「いいから! 教えて!」

「……怒らない?」

「怒らない……っていうか、言わない方が怒る」

「本当に?」

「もう、なんでもいいから教えなさい!」

「わかった……なずなが、僕と契りを交わせば、その障りから解放されるよ」

「……契り?」

「うん……だから、そのー……体の交わりっていうか……」

「体の……交わり……?」

ヒイラギは耳まで真っ赤になって俯いた。

私はしばらくその意味を考え、何故ヒイラギがそんな様子なのか、そして私に今まで隠していたのか、そこからようやくその意味を理解した。

「まさか……それって、エッチな事しろって事!?」

「…………あっ……あぁぁぁっ……ゴメン、ごめんね! ごめんなさいっ!!」

「はあぁぁぁぁぁぁっ!? アンタ、ソレ本気で言ってる?」

「……うん、ゴメン……本気……」

そこから、二人の間にしばしの沈黙が流れた。

しんと静まりかえる中、この空気に耐えられなくなったのは私の方だった。

「確認なんだけど……それ以外の方法はないんだよね?」

「ない……あとは、僕がなずなを諦めて離れるしかない」

「じゃあ、諦めて」

「だから! それは無理だよ! 僕はもうずっとなずな一筋なんだから、なずな以外の相手なんて考えられない!」

ヒイラギは目に涙まで溜めて抗議してきた。

「……わかった。じゃあ本当に、それをしたら不運からは逃れられるの?」

「うん、それは保証するよ……なんなら少し、試してみる?」

「えっ? 試す?」

ヒイラギは立ち上がり、私の側へ来ると身を屈ませた。

「なずな……」

頬を優しく撫でられ、そしてゆっくりとヒイラギの顔が私の顔に近づく。

「ヒ……イラギ……」

次の瞬間、私の唇はヒイラギに塞がれていた。

何が起こったのか、突然の事にパニックになる私の頭をそっと撫でてヒイラギはゆっくりと唇を離した。

「……多分、コレで少しは」

そう言って、ヒイラギはすぐに目を伏せた。

「ごめん……これ以上したら止まらなくなりそうだから……でも、これで少しは不運を避けられるから」

「へっ? あっ、うんっ……」

心臓がバクバクと高速で血液を私の体に送っている。突然の事にまともに頭の中がぼーっとしていた。

「なずな? 平気?」

「へっ? あっ、うんっ……」

「キス程度だと多分、効果は明日の夕方くらいまでだと思う」

「わっ、わかった……」

ちらりとヒイラギの顔を見ると、真っ赤になってそっぽを向いている。

私は私で、ヒイラギと初めて交わしたキスに、その夜はずっと頭の中が真っ白になっていた。