「仕事がなくなったってこと?」

「そう……」

「お金がないってこと?」

「だから、そうっ!」

「じゃあ、やっと僕と祝言をあげて、夫婦になり僕の世界で暮らせるって事だね?」

「だから、そうっ……じゃないっ!! まだ夫婦になるのを許可してないし、私はそんなとこには行きたくないのっ!!」

「どうして?」

小首を傾げるその仕草が、ムカツク事に可愛いと思わせるのはやはり彼のルックスがものをいうからだろう。

「こっちの世界では確かに僕は貧乏神で、なずなに裕福な暮らしはさせてあげられないけど、神の世界にいけばこれでも一応神様だからね、何一つ不自由のない暮らしをさせてあげられるよ?」

「あのね、そういう事じゃないの……、夫婦ってつまり結婚するって事だよね? 私は、本当に好きな人としか結婚なんてしたくない……」

そりゃあヒイラギは顔は申し分ない私好みのイケメンだし、背も高くてスタイル良いし、料理上手いし、マッサージ上手いし、優しいし……

い、一応神様だし、申し分はないのだけれど……

「私、あんたのこと、まだ良く知らないもの……」

「僕はなずなの事、いっぱい知ってるよ! ず~っと見て来たからね」

「それだって私は知らなかったし!」

ヒイラギはまた縋る様な瞳で私を見つめた。

「なずな……なずなは、僕が嫌い?」

「だから……そんなの、よくわかんないよ」

そう、よくわからない。

これが今の私の正直な気持ち。

これでも人並みには恋人もいたと思う。

でも、本当に相手を好きだったかと問われるとイマイチ自信が持てない。

私はいつも、自分の気持ちにあまり素直になれない方で、いつも流されて付き合って、本当に好きという気持ちを見失う。

だから、今もこの目の前にいるヒイラギがどんなに魅力溢れる相手でも

押しに流されているだけなんじゃないか? そんな不安が沸いてきてしまう。

「そっか、そうだよね……」

「ごめん……」

「ううん、いいんだ! じゃあ、なずなが本当に僕を好きになってくれるまで僕、頑張るよ」

「ヒイラギ……」

「そうだ、僕もアルバイトする! 一度現世で、労働っていうのしてみたかったし」

「アルバイトか……私も次の職探さなきゃ……」

その日食べたカレイは、これがもう絶品で、会社をクビになった直後は今度こそ出ていってもらおうと思っていたのだけど、結局また言えずじまいで終わった。