もちろん、追い払う、お引き取りを願う、そんな事も最初は考えていたのだけど、何故かそれが出来ない。

見た目が私のタイプ、ドストライクだったのもあるかもしれない。

来て早々に作ってくれた、お味噌汁と煮魚が絶品だったのもあるかもしれない。

更に、家事全般が得意で、お弁当に入れてくれるだしまき卵はもう、一度口にしたら忘れる事が出来ないからかもしれない。

でも……、多分、一番の理由は……。

「なずな、キミを愛してる、僕と添い遂げて欲しいんだ」

初めて、ヒイラギは私の前に現れた時、真っ直ぐその曇りの無い瞳で私にそう言って来たのだ。

私はあんな風に、異性からはっきりと告白された事なんて今までなかった。

プロポーズとも言えるその真剣で一生懸命な告白に、私はNOとは言えなかった。

「でも、こんな事になるなんて聞いてない」

洗い場の鏡に向かって一人愚痴る。

その時、鏡の隅に一瞬、黒い影が写った気がしたその瞬間──

「なずな! 背中流してあげるよ」

ガラリとバスルームの扉が開け放たれ、腰にタオルを巻いた以外何も身につけていないヒイラギが乱入してくる。

「きっ、きゃああああああああっ! いいっていつも言ってるでしょっ!?」

ふと目に入って来た、普段の和服姿ではわからない、逞しい肩や厚い胸板、一瞬いけない妄想をしそうになってしまう。

「で、でも、僕たち夫婦(めおと)になるんだよ? お風呂くらい一緒に入ったって……」

「まだなるなんて言ってないぃっ!!」

こんな、やりとりをもう3ヶ月ずっとしているワケなのだけど……。

「あのね、ヒイラギ……話しがあるの」

なんとか二人で入るお風呂を今日も阻止し、ヒイラギの作ってくれた夕飯(今日のメインはカレイの煮付け)を前に、私は重い口を開いた。

「どうしたの? もしかして、カレイ嫌いだった?」

子犬の様な潤んだ瞳が私の様子を伺ってくる。

その表情はとてもずるいと思わずにいられない。

「ちがう、あのね……私、とうとう会社をクビになったの……」

「えっ?」

「会社が倒産したの……これって、またアンタの障りのせいだよね?」

「なずな……」

「そりゃあ、アンタが貧乏神だっていうのは知っていたけど、こう立て続けに悪いことが続くと……」

どうしたらいいのか、わからない。


解決策が見つからず、途方に暮れてしまう……