一週間後──

「行って来まーす」

「いってらっしゃい! なずな、お弁当……それと、いってらっしゃいの……」

唇を尖らすヒイラギを無視し、お弁当を受け取る。

会社に行く私を見送るヒイラギとの、ここ最近恒例になったやりとりだ。

あの日から私の不運はウソの様に収まり、ここ数日普通の生活を送っている。

どうやらヒイラギと一線を越えた事で、本当に私は障りから解放されたらしい。

ようやく元の生活が戻った。

マンションを出ると爽やかな朝の空気と、眩しいほどの朝日。

昨日、障りから回避した記念に会社帰りに買った新品のスカートに、おろしたてのパンプスを履いて、気分も最高だ。


が、そんな私の目の前は何故だか真っ暗になった。


「えっ……?」

何が起こったのか理解出来ない。

落ち着いて顔に手をやると、どこかのスーパーのチラシが風に飛ばされて顔に張り付いたようだ。

理解したのも束の間、視界が奪われたせいで今度は、足下に転がる缶コーヒーの空き缶に足を取られ、そのまますっ転んだ私は、ビリッという嫌な音を聞いた。

新品のスカートが太腿まで裂けている。

「あっ、あはは……ぐ、偶然偶然……」

更に、一台の自転車が前を通り過ぎたかと思えば、その車輪が側の水たまりに飛び込み、私の頭に雨を降らせる。

そして、そこにまるで追い打ちをかけるように、立ち上がった私の足下が急にグラついたかと思えば、ヒールがポッキリと折れた……。

「ひ、ひっ、ヒイラギっ!?」

急いで部屋へと戻った私を見て、ヒイラギはすぐに何かを悟ったのか私から視線を逸らした。

「ちょっと! コレ! 一体どういう事なのっ!?」

「えっ……ええっと……」

ヒイラギは気まずそうに、場を取り繕い苦笑いでごまかそうとする。

「ヒイラギっ!!」

「うっ……! えっと、多分、なんだけど……完全な障りの回避にはならなかったんじゃないかな……」

「はぁっ? ナニそれ……?」

「や、やっぱり、ちゃんと祝言をあげて、なずながこっちの世界に来ないと障りの回避は出来ないみたいな……」

「出来ないって……でも、今日まで何事もなく……」

「その……多分だけど、効果は多少あって、で、でも、また時間で制限付きというか……キスよりも効果は長いみたいだけど」

「じゃあ……もしかして……」

「またしたら、一週間くらいは大丈夫だと思うよ」

「また、したら……って……」

「えっ? だって、なずな、僕となら、そのしてもいいってこの前……」

「……ヒイラギ……アンタ……」

「僕、頑張るから!」

「……そういう、問題じゃあないっ!!」

「なっ、なずなっ!?」
  

私の不幸はまだ当分続きそうだ。