「はっ……? えっ? ちょっと今何て……」

「だから、婚約は……まだ正式には解消してない……」

「どどどど、どういう事!?」

「……一度魂に繋いだ縁(えにし)を完全に断つには、僕でも時間がいるから……一週間は早くてもかかる」

私は、言いたい事が沢山あり過ぎて、まず何からヒイラギを問いただせばいいのかパニックになった。

「……そう、なの? じゃ、じゃあどうして障りは今日無かったワケ?」

「それは……僕が今日はココにいたから」

「どういう事?」

ヒイラギは、古いけれどもきちんと手入れの行き届いている社を振り返り見た。

「ココは普通の神社とは違う神域だから、人から神を守る場所であり、神から人を守る場所、神は人から影響を受けない即ち人も神から影響を受けない」

「つまり、ココにあんたがいたから、私は障りに合わなかったってワケ?」

「そう……僕は、あまり人に良い影響を及ぼさないから……」

ああ──
だから、初めて会った時ヒイラギはこの神社にいたのか。

人から忌み嫌われる神様、だから自分からこの場所に……。

「なずなとこうして暮らし始める前はね、ずっとココにいたんだ……」

「えっ……それじゃあ、私があんたの事見えなくなった後も?」

「うん……ココにいた……そして、たまになずなを見に行ってた……またストーカーって言われちゃうね」

そう言ってヒイラギは困った様に微笑んだ。

「向こうの世界でなずなを思うより、少しでも側に……いたかったから……」

「……そ、そんなに好きなのに、婚約解消するとか自分から言ったワケ!? あんた、今までの時間ムダにしようとしてたの……!?」

「だって……なずなには、僕じゃなくて……他に好きな人がいるって思ったから……」

「はぁっ!?」

全く身に覚えの無い事を言われ、私はヒイラギに詰め寄った。

「私が一体誰の事を好きだって思ってたワケ!?」

「……大学の同期の……会社で会った……」

「はぁぁっ!? まさか……相原君の事!? 」

ヒイラギはコクリと頷いた。

「やっぱり……僕なんかより、なずなはヒトと結ばれた方がいいかなって……その方がなずなは幸せなんじゃないかって……考えてた」

「彼は、大学時代の友達で……って、もう!
めんどくさいっ!!」


私は、少し背伸びをすると少し自分より高い位置にあるヒイラギの唇にキスをした。


「────っ!? な、なずなっ!?」

唇を離すと、彼は顔を真っ赤にして慌てふためいている。
私の方が、ホントは顔から火が出そうだというのに……。